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神戸から山と消費者をつなげる―シェアウッズ 山崎正夫さん【Think Global, Act Local #3】

「Think Global, Act Local」をキーワードに、“ローカル=地域”を拠点に環境問題に取り組む人を紹介するこの企画。
第2回目は、京都の漆屋「堤淺吉漆店」の4代目・堤卓也さんを紹介しました。(堤卓也さんの記事はこちら
 
第3回目の今回、堤さんからバトンを受け取ったのは、神戸市を中心に木材のコーディネートをしているシェアウッズの山崎正夫さん。

環境を守っていくために山を上手に循環させて、六甲山の間伐材を活用したテーブルや椅子を作ったり、ものを大切に使いたいと思うきっかけとなるような、作り手と消費者をつなぐコミュニティづくりを行ったりしているそう。今回、シェアウッズの拠点である神戸市の工房「MAR_U」を訪ね、山崎さんの活動について詳しくお伺いしました。

“山と消費者をつなげる”という仕事

ーー山崎さん
木材の世界において、「山と消費者がとても遠い」という課題があります。
 
シェアウッズでは、直接山の所有者のところに行って、原木市場で流通する価格帯で木材を購入し、製材して、加工して、保管する、全ての過程を見届けています。つまり、木材流通の川上から川下まで一貫することで、“山側と消費者側をつなげる”ということが、私たちの仕事です。

六甲山の森林

日本の森林や林業が抱えている問題

人の集落に近い山は、里山として、長い間人の暮らしと密接に関わってきました。人々は、コナラやクヌギのような燃料になる木を切って薪にして、お風呂や料理などに使っていました。そのため、適度に山に入って、木を育てて、切って、また育てるというような循環ができていたんです。
 
しかし、燃料革命が起きて石油などが普及すると、燃料としての山の木が必要なくなり、人々は山に入らなくなってしまいます。
 
その後、木材の輸入や為替の自由化などの外来的な要因で、外材が大量に安く流通するようになっていきます。国産材の需要は減っていき、山の木が切られなくなっていきました。木々が切られなくなると、良い木が育たなくなるという悪循環が起きてしまいます。
 
現在、日本の国土の7割弱が森林で、その半分ほどが人工林です。人工林は、手入れされなくなると崩れてきてしまうので、適度に間伐をして、木を育てていかなければなりません。しっかりと手入れをしていくためには、林業として稼いで、利益を山に還元していく仕組みを作っていく必要があります。
 
また、「非経済林」と呼ばれる、お金にならない森林が放置されていることも問題となっています。放置されると山に日の光が差し込まなくなり、鹿や猪が食べる下草や木の実も育たなくなります。そうすると、動物たちが集落に降りてきて、畑を荒らすという獣害が生まれてしまうことも。さらに、山が崩れるだけでなく、人々が住む地域への土砂災害のリスクもあるので、対策を考えていく必要があるんです。

市民の暮らしに密接に結びついた山、六甲山

六甲山の特徴は、山と町が近いこと。都市部からすぐ近くに山があって「都市山」とも呼ばれています。
 
六甲山は、明治後半まではほとんど木が生えていないハゲ山でした。そのため、大雨が降ると度々水害を引き起こし、市街地に被害が出ていたようです。そこで、所有者である国や自治体、企業などが、防災的な観点から大きな植林事業を開始。明治神宮を設計した、林学博士の本多静六が六甲山の設計をして、広葉樹を中心に植林していきました。
 
120年近く経った今、六甲山の樹木は大きく成長。しかし、六甲山ではもともと林業が行われておらず、山に入って木を切るという習慣がなかったため、木が大きくなりすぎたことで、山が崩れ始めています。
そこで、神戸市が2012年に「六甲山森林整備戦略」を作って、木を間伐する取り組みを始めました。間伐した木で、市役所のベンチや、図書館の家具を作るなどして有効活用しているようです。

神戸の街中から見た神戸の山

日本の山の現状を知って、カホンプロジェクトを立ち上げる

もともと私は、ドイツの木材メーカーの輸入代理店で働いていました。その中で、「日本の山にはたくさん木があるのに、なぜ使わないのだろう」という疑問を持ち、森林組合や林業家の方にお話を伺うことに。衰退している日本の林業の現状を彼らから聞いて、自分も何かしなければ…と思って。日本の山々の木材を使ってもらうために、山と消費者の距離を縮めたいと思うようになりました。
 
林業家は木を切ることが仕事で、切った木がその後どんな物に使われているのか見ることができません。また木工屋さんは、木の板を見て木の種類を判別できても、立っている木をみて判別できない場合があるようです。このように、分断されてしまっている山の人と町の人をつなげられるような、なにか楽しいことができないかと思って、2009年に会社で働きながらカホンプロジェクトを立ち上げました。

カホンプロジェクトの様子

カホンとは、中南米生まれの箱型の打楽器のこと。カホンプロジェクトは、地域の人たちと一緒に、その土地の木を使ってカホンを手づくりする活動です。
 
このプロジェクトが、山側の製材所と町側の木工所が直接つながるきっかけとなり、その地域の方々の力でプロジェクトを続けていけるような仕組みができてきました。今では、全国の地域で、定期的に活動ができるようになってきたんですよ。
 
このプロジェクトをきっかけに、木材の流通過程をコーディネートすることを仕事にしたいと思うようになり、シェアウッズとして独立することにしました。

作り手がシェアする工房「MAR_U」

自分の地元である神戸で、林業家からエンドユーザーまでがつながれるようなコミュニティの場を作ろうと思って、工房「MAR_U(マル)」を立ち上げました。
山側に価値を還元するためには、木材を販売するだけでなく、机や椅子などのプロダクトを作って販売することで付加価値をつけなければなりません。「MAR_U」は、その制作の場という位置付けです。
 
「MAR_U」には、現在3人の作り手がいます。彼らは、神戸芸術工科大学などで木工の勉強をしていた人たちで、“シェア工房”のような場所になっています。私自身は作り手ではないので、この場所は次の世代に引き継いでいけたらと。

工房「MAR_U」の様子

「MAR_U」がある神戸市兵庫区は、造船所関連の町工場や鉄工所、家具などの町工場、製材所などがたくさんあった場所。しかし、阪神淡路大震災以降、造船業は縮小され、工場も減っていきました。そんな流れの中、「MAR_U」は、60年以上船造りをしていた船大工工房「マルナカ工作所」の跡地を借りることに。跡取りがいなくなった工場を建て替えるのではなく、すでにある船づくりの木工機械などを有効活用するほうが持続的だと思ったんです。

「MAR_U」のある神戸市兵庫区の様子

今日からはじめられるアクション

神戸市公園緑化協会と神戸スマイルプロジェクトとともに、「Kobeもりの木プロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトでは、六甲山の手入れの際に発生した木材の活用を考え、利用していく仕組みづくりをしています。
 
地域の人たちに山の現状を知ってもらうために、子ども向けから大人向けまで、さまざまなワークショップを開催しています。そのワークショップでいただいた参加費は、六甲山の森づくり基金に入れ、山の手入れについて学べるパンフレットを制作するなど、環境学習のための活動費に充てています。

Kobeもりの木プロジェクトのワークショップ

このような活動を通して、山のことを自分たちの生活の一部として考えてほしいなと思います。お金の仕組みも含めて、循環していく社会モデルが作れたら理想です。町の中にある空き家や商店街について考えることと同じで、自分たちの山を自分たちで守っていくためにはどうするべきか考えていくことが大事だと思います。このような地域の活動が横展開して、他の地域にも広がっていくと良いですよね。
 
まず今日から始められるアクションとして、普段の生活の中で、ものを買ったり使ったりする際は、誰がどこで作った製品なのかを意識してみてほしいです。そうすると、生産者である山の人たちともつながりができていきます。それを作っている人のことを考えて買うことによって、環境が守られたり、自分たちの暮らしが守られたりしていくのではないかなと思っています。
 
堤さんから受け取ったバトンを次は、神戸市長田区で漁師をしている尻池宏典さんにつなぎます。
尻池さんは、神戸で船びき漁を営む漁師を集めて「KOBE PAIR TRAWLINGS」というチームをつくり、海の生態系を守るため日々活動をしています。

***

山崎正夫さん、ありがとうございました!山崎さんのお話を通して、山の現状を知ることができました。実は私たちの生活に身近な存在である山について、普段の生活の中で想いを馳せ、アクションを起こすことの大切さを教えていただきました。

次回は、バトンを受け取った尻池さんが登場します。お楽しみに!

シェアウッズ代表
山崎正夫さん


大学卒業後、出版社勤務を経て、ドイツ木材メーカーの輸入商社に12年在籍。2009年に間伐材を活用した打楽器づくりのワークショップ集団〈カホンプロジェクト〉を創設し、2013年には木材のプラットフォーム〈SHARE WOODS〉を立ち上げる。以来、神戸を中心に地域材を通じて森とまちをつなぐ活動を続けている。

シェアウッズ http://www.share-woods.jp/
MAR_U https://marunaka-factory.com/
カホンプロジェクト http://woods-kids.jp/
Kobeもりの木プロジェクト https://www.kobe-park.or.jp/rokkosan/project/


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