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放置竹林問題に取り組む三重県桑名市。その活動から見えてくる、里山のSDGsとは?

蛤の産地として全国的に有名な三重県桑名市。実は、「竹」も有名ってご存知でしたか?古来から竹は、食や生活用品としても親しまれており、地域伝統・文化から切っても切り離せないもの。しかし、この竹・・・成長スピードが驚くほど早く、手入れが行き届かなくなると災害や害獣被害を招くことも。放置竹林を作り出してしまう現状と竹の新たな利用法、担い手の重要性などを桑名市長・伊藤なるたかさん、桑名市農林水産課・稲田さん、伊東さん、そして桑名竹取物語事業化協議会・蛭川さんと一緒に考えます。


古くから「竹の町」として発展してきた三重県桑名市

――タケノコは桑名市が誇る特産品と伺いました。

伊藤なるたか市長

桑名市というと「蛤」の産地として知られていますが、実はタケノコの産地として栄えていた町でもあります。木曽三川の粘土質に恵まれた桑名の土壌では、えぐみが少なく、甘く柔らかいタケノコが育ちます。生育の早いタケノコは短期間で高収入を得られますので、明治時代頃には農家の副業として発展したと言われています。現在でも桑名市には約660haの竹林があり、これは市の総面積のなんと5%を占めているほど広大なもの。2018年のJA出荷額は1億5千万円と、桑名市の大切な特産品の一つです。

――香り高いタケノコは春の味覚としても人気ですよね。
孟宗竹(もうそうだけ)などの味わい深く美味しいタケノコはもちろんですが、そもそも「竹」は、古くから日本人に親しまれてきた植物の一つです。家具や食器、カゴやざる、門松などの装飾品の原材料となって、日本人の生活を便利で豊かにしてくれていました。しかし、プラスチック製品の普及、安価な輸入タケノコの増加、欧米化による食生活の変化とともに、少しずつ需要が減ってしまい…。その結果、現在では90%もの竹林が活用されなくなりました。

――90%もの竹林が放置されているのですか?
桑名市にある約660haの竹林のうち、10%にあたる約65haはタケノコの生産に使用されていて、約500件の農家さんたちが管理されています。しかし残りの約600haは、整備が行き届いていない放置され荒廃した竹林。
高齢化社会に伴って、土地の持ち主が管理することができなくなり全国でも放置竹林が急増して問題となっている状況です。

――竹林の放置によってどのような問題が起こるのでしょうか?
かつての桑名市には美しく豊かな里山が広がっていました。しかし、生育が早く、生命力の強い竹は里山を侵食し、農地にまで根をひろげていったんです。その勢いは凄まじく、それまでしっかりと土壌を支えていた他の木々の成長を阻害するほど。木々は根本から折れて、竹にもたれかかるように腐っていきました。放置竹林の斜面には竹によって倒された木々の残骸が積み重なるように倒れています。さらに、竹は非常に背が高く、あっという間に他の木々よりも大きくなり、降り注ぐはずの太陽の光を遮ってしまいます。すると、森林はどんどん枯れてしまい、残っていた木々の根ですら土を支えることができなくなります。

――竹の生命力が強く、他の植物は負けてしまうということですね。

そうです。しかも、竹は根がとても浅く、約30cm程度しかないので土や水をしっかりと抱えることはできません。そのため、大雨や台風に見舞われると土砂災害の危険性が高まる…というわけです。
また、生い茂った竹林には人が入りにくくなるため、イノシシなどの絶好の隠れ家にもなります。竹林の土壌をよく見ると土がボコボコと掘り返されているような箇所が至るところに。それらはイノシシが土の中で眠っているカブトムシの幼虫を食べてしまった跡です。さまざまな種類の昆虫が生息していた森林の生態系を変えてしまったり、害獣被害を誘発したりする恐れもあるので、竹を放置した状態が続くことは好ましくありません。


行政主導だけでは追いつかない厳しい森林環境の変化

――その問題に加え、地域の持続可能性と向き合うために公民連携で取り組みを始めたというわけですね。

桑名市農林水産課 左:伊東さん 右:稲田さん

これまでも行政主導でいくつかの企業に相談したり、連携したりしながら放置竹林を整備するべく取り組みを行ってきました。しかしそれだけでは到底追いつかないくらいに課題は拡大化していき…。そこで、企業やNPO法人桑竹会などと協働で課題解決を試みる『公民連携』という手法に切り替えたんです。放置され荒廃した竹林の整備を行い、美しい里山の再生を目指しながら、伐採した竹の有効利用や新たなサービスの創出、それらの整備に必要となる施設の開発も含めた、持続可能な未来を描けるような取り組みです。
その中で大きく関わってくれているのが、桑竹会と桑名竹取物語事業協議会です。
桑竹会は、「広がり続ける放置竹林をなんとかしよう」と、平成21年に同僚4人で立ち上げたNPO法人。当初は15人ほどで竹林整備を行っていましたが、次第に仲間が増え現在では51名になるほど。100%ボランティアとして取り組んでいらっしゃいます。
そしてもう一つが、桑竹会の取り組みをベースとして民間主導で設立した「桑名竹取物語事業協議会です。

――「桑名竹取物語事業協議会」について教えてください。

桑名竹取物語事業協議会の蛭川さん

放置竹林の問題は一時的な解決だけでは意味がなく、成長する竹とともに持続・継続していくことが大切です。放置され荒廃した竹林を整備するには労力も必要ですし、より広い竹林を整備するにはトラックや粉砕機などの機器や燃料を使用するための資金も必要です。とても個人で請け負いきれるような規模ではありません。
また、美しい竹林を保全するためには、安定した人員や資金の確保が必要です。つまり、持続可能な循環型事業を創出することが求められます。桑名市と住人だけでなく、隣接市町の行政や企業とも手を取り合って竹林保全に取り組もうと発足したのが「桑名竹取物語事業協議会」というわけです。

――「桑名竹取物語事業協議会」ではどのような取り組みをされているのですか?

桑名市福祉ヴィレッジに導入された竹の集成材/画像提供:桑名市役所

ひとつは、企業とコラボしての製品開発に取り組んでいます。切った竹を集成材として家具を作ったり、有名飲食店のメニューとしてメンマを作ったりと、商品化することで竹林の有効活用ができないかチャレンジしています。
また、一人でも多くの人に「放置竹林」について興味を持ち、考えてもらうために情報発信にも力を入れていこうと考えています。
参加メンバーに高齢の方が多く、未来のことを考えるとまだまだ問題は山積みですからね。


「竹」がつないでいく地域への思い

――今後、放置竹林問題を解決するためにはどのような取り組みが必要だと考えていますか?

行政の政策による整備の促進や企業の協力による「商品化・起業化するための竹林」への転換など考えられることはたくさんあると思います。しかし、一番大切なのは一人でも多くの人が、自分の住んでいる地域に目を向けることであり、地域の問題に一人ひとりが取り組むことではないでしょうか。
忙しく便利な現代を生き抜いている人が、地域に目を向ける機会はあまりないかもしれませんが、ほんの少しの関心が地域の問題を解決する手助けになるのではないかと思います。

――そうすることが、日本人を支えてきてくれた「竹」や日本古来の美しい里山に対する恩返しになるのかもしれませんね。

SDGsが世界で取り上げられるよりもっとずっと前、日本人は自然を愛し、ものを大切にしながら暮らしていたはずです。今は、その頃に比べると便利にはなったけれど、大切にしなくてはいけない何かが見えにくくなっているのかもしれません。大きなアクションを始めるのは難しいけれど、まずは自分や家族、身の回りを見渡して「自分が育った場所や好きな土地のためにできること」に想いを馳せてみてください。そして、実際にその場所に足を運んで、自分の目で見て欲しいんです。もちろん、機会があれば桑名市のイベントにもぜひ参加していただければと思います。

――桑名市ではどのようなイベントが行われているのですか?

親子での参加も多い春のタケノコ掘りイベント/画像提供:桑名市役所
桑名工業高校生たちとの流しそうめんイベント/画像提供:桑名市役所

春にはタケノコ掘り体験、秋の収穫祭、竹灯りコンサートでは幽玄の明かり空間でコンサートを楽しんでいただくなど四季折々の企画を用意しています。竹工作の体験も人気です。
しかし、なによりも整備された竹林の美しさは、日本ならではのもの。竹林を歩き、その美しさに触れ、心から癒される体験をしていただきたいと思います。
竹林整備においては大変な側面もあるけれど、桑名市の竹は我々の大切な「資産」です。これからも、美しい竹林を取り戻せるよう活動していきます。


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