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日本初!徳島県上勝町が宣言した「ゼロ・ウェイスト」。実現するための取り組みとは?

徳島県の山あいにある上勝町。人口約1,400人の小さなこの町は、2003年に日本の自治体で初めて、ごみを減らしてゼロに近づける「ゼロ・ウェイスト」を宣言。この活動を経て、リサイクル率はなんと約80%に到達したそうです。

上勝町の取り組みには、私たちが持続可能な社会を実現するためのヒントがあるはず。そこで今回は、「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」を訪ねて、同町の取り組みをレポート。ゴミステーションの管理や、町外からの交流人口を増やす取り組みなどを行うNPO法人「ゼロ・ウェイストアカデミー」の事務局長を7年勤め、現在もゼロ・ウェイスト推進員として活動する藤井園苗さんにお話を伺います。

野焼きはダメ、焼却炉も閉鎖。苦しい状況から生まれた「ゼロ・ウェイスト宣言」

──上勝町は2020年までに焼却・埋め立てゴミをできるだけゼロに近づける「ゼロ・ウェイスト」を2003年に宣言しました。どのような経緯だったのか教えてください。

──藤井さん
法律の強化によって1998年に「野焼き」が禁止されたことがきっかけです。上勝町は昔からゴミ収集車が走っておらず、それまでごみは主に自宅の庭先や野焼き場に穴を掘って燃やしていました。

野焼きができなくなったので同年には焼却炉を2基設置し、同時にごみを22種類に分別することも始めました。いままで自分たちで好きに燃やせたのに、「ごみを細かく分けてください」と注意されるようになり、町民の方はかなり動揺していました。

ところがこの焼却炉もダイオキシンの規制強化を受けて、わずか3年で閉鎖することに。その後、ごみ処理は民間に委託するようになりましたが、お金がかかります。行政では「燃やすものを本気でなくさなければ」という危機感が高まり、2003年に「ゼロ・ウェイスト」を宣言しました。

──ごみを減らすためにどのようなことから始めましたか?

──藤井さん
焼却ごみの3~4割が生ごみだったので、まずこれを減らすことから始めました。生ごみは水分が多くて燃えにくくCO2の増加にも直結します。

そこで各家庭で処理し、たい肥化してもらうことを決めて、コンポスターと電動生ごみ処理機の購入を町が補助することで普及を図りました。生ごみ以外のごみはゴミステーションに各自持ち込んでもらい、町民には合わせて34種類の分別をお願いしました。

──当時、「ゼロ・ウェイスト」を実行する自治体は他になかったと思います。海外などにロールモデルはあったのですか?

──藤井さん
海外で「ゼロ・ウェイスト」を宣言するところはありますが、その多くは大きな自治体です。それらの自治体は住民の協力をそれほど当てにしていません。資源化できるものはまとめて回収してラインに流して、雇用や機械の力で解決します。
 
しかし、上勝町は人を雇うお金も機械もなかったので、住民にできる限り協力してもらいました。宣言から20年経ったいまでも町民と役場のコミュニケーションが取れて、結果を出せているのは奇跡的なことだと思っています。

町民と役場が力を合わせて、リサイクル率約80%を達成

──「ゼロ・ウェイスト」が目指したものは何でしょう?

──藤井さん
私たちの子どもや孫たちに上勝町の豊かな自然を残すために、ごみをできるだけゼロにすることが目標でした。宣言にあたり、その思いを町民の方々に伝えたんです。

──とはいえ、家庭で生ごみを処理し、その他のごみを34種類(2022年現在は45種類)にも分別するのは大変ですよね。どのように意識を合わせて乗り越えたのでしょうか?

──藤井さん
もともと有機物を畑などに撒くのは当たり前の環境だったので、家庭で生ごみをたい肥化することは抵抗なく受け入れられました。

反面、他のごみを細かく分別することについては、慣れるまでにかなり時間がかかったようです。それでも大きな反対運動が起こらなかったのは、上勝町の人々が「自分のことだけを考えるのではなくて、愛着のあるこの町を良くしたい」と強く思っていたからだと感じています。
 
加えて、各集落を引っ張るリーダーの方々の存在も大きかったですね。「新しい制度になって困ることがあれば私たちが助けるから」と不安を抱く集落のみなさんに声をかけてくれたんです。「行政任せでは町を存続させることはできない。町民ができることはしないといけない」と、みなさんが自覚されていたのだと思います。

──上勝町の「住民力」の強さを感じますね。
 
──藤井さん
もう一つ、2005年に「ゼロウェイスト・アカデミー」というNPO法人が発足したことも大きい要因です。行政職員のみが現場を担当していた頃はリサイクル率が下がっていました。しかし、「ゼロ・ウェイスト」という目標に向けてできることを専任的に考えるNPOが現場をどんどん改善して、そこからリサイクル率がぐっと上がっていきました。2016年にはリサイクル率が80%を超えましたが、これは「住民力」に加えて、行政とNPOの両輪で取り組んだからこその成果だと思います。

※上勝町よりデータを借用

「ゼロ・ウェイスト」の情報発信とブランド化を進める

──2020年には、旧ゴミステーションをリニューアルした「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」がオープン。これはどのような施設ですか?

──藤井さん
町民の方々のごみを回収する場である「ゴミステーション」や、まだ使える不要品を持ち込み、無料でほしい人に譲る「くるくるショップ」、ゼロ・ウェイストアクションホテル「HOTEL WHY」などで構成されています。

上勝町の方がごみを持ち込む「ゴミステーション」
「ゼロ・ウェイスト」な宿泊体験ができる「HOTEL WHY」
地域の方がまだ使える不用品を持ちこみ、
だれでも欲しい人が持ち帰ることができる「くるくるショップ」

──この施設はどんな役割を担っていますか?

──藤井さん
「上勝町ゼロ・ウェイストセンター」の役割は2つあります。一つは情報発信です。町外から訪れた人が「ゼロ・ウェイスト」の理念を学んで世界に発信していける施設を目指しています。たとえば、「HOTEL WHY」では、宿泊客が出したごみを自分で45種類に分別する体験や、「ゼロ・ウェイスト」の取り組みが学べるツアーを提供しています。

もう一つは、「ゼロ・ウェイスト」を上勝町のブランドとしてアピールする場所としての役割です。「ゼロ・ウェイスト」を進めてこの町を持続可能なものにするためには経済的に成り立って循環させることが必要です。今後は、「ゼロ・ウェイスト」のブランド力を強化して、町外から人や企業を呼び込み、ビジネスにつなげたいと考えています。

──これまでの「ゼロ・ウェイスト」の取り組みについて、町民の方はどのように感じているのでしょうか?

──藤井さん
2017年に実施したアンケートの結果では、「ごみの分別を通して、上勝町に貢献できる」と多くの方が答えたことが印象的でした。

ごみの分別をポジティブに捉えている大きな要因の一つは、メディアに取り上げられることが増えて、まわりから大きな評価を得ていることを実感しているからだと思います。今後も、町民の方々に自分たちがやっていることに誇りを持っていただけるよう、積極的に情報共有していきます。
 
それと同時に、町民の方々が分別したものが、身近なものにアップサイクルされて戻ってくる仕組みもつくりたいですね。そうすることで、自分たちが行っていることの意味をより感じていただけるのではないでしょうか。「ゼロ・ウェイスト」の取り組みが活性化する取り組みをどんどん行っていきたいです。

普通にたのしく暮らすことが、環境にもいい影響を与えるような社会を目指して

──上勝町では、2020年に新たな「ゼロ・ウェイスト宣言」をしました。今後の展望を聞かせてください。

──藤井さん
新たな宣言には、「ゼロ・ウェイスト」で暮らしを豊かにすること、ごみになるものをゼロにするためあらゆるチャレンジをしていくこと、環境問題を学べる仕組みをつくって人材育成することが盛り込まれています。

──リサイクル率が約80%を超えて、あと約20%の焼却・埋め立てごみを減らすことが今後の課題だと思います。どのようなごみがリサイクルしづらいのでしょうか?

──藤井さん
主に2種類あって、一つは分解しづらいものです。たとえばフライパンの蓋のように、縁や取っ手の部分はプラスチックで、それらがガラスと一体になっているようなものです。もう一つは、素材の劣化が激しかったり、汚染されたりして、どうしようもないものです。塗料の缶などはきれいに洗おうとしても無理ですよね。これらは埋め立て処分しますが、処分場に行くと想像以上にいろいろなものが集まっています。

──そのようなごみを今後どうやって減らしていくのですか?

──藤井さん
企業に働きかけながら減らしていきたいと考えています。企業には、自社が作った商品がどう処分されているのかをまず確認いただき、リサイクルできない状況になっているなら、どうすればリサイクルできるかを考えてほしいですね。そして最終的には、もし自然の中に放置されても、自然の中で循環されていくものができるのがベストでしょう。

加えて、消費者は「賢い消費者」になることも必要です。ごみを分別する以前に、商品を買うという行為の先にあることを考えなければなりません。基本的に企業は多くの消費者が求めるものを作るわけですから、一人ひとりの購買行動が企業を変える大きな力になるはずです。

──最後に、これから上勝町をどんな町にしていきたいですか?

──藤井さん
「ゼロ・ウェイスト」が最終的に目指す姿は、「環境にいいからやってください」と町民の方々に押し付けるのではなく、「普通にたのしくこの町で暮らし続けて、その結果、環境に対していいことしていたね」となることです。現在は、ごみ分別という手段が目的になっているところがあります。そうではなく、自然にごみが減る仕組みを作って、この地に暮らす方々が心地よいと思える空間や時間をもっと増やしていきたいです。

***
藤井さん、ありがとうございました!

上勝町の「ゼロ・ウェイスト」の取り組みは、いま世間から大きな注目を集めていますが、藤井さんは「うちの町の手法は真似しないでください」と言います。

なぜなら、自治体ごとに住民の気質や文化、産業構造などは異なるので、自分たちにとっていちばん効果的なシステムを考えることが大切だから。

持続可能な循環型社会をつくるという目標は共有しつつ、「自分の生活に合った方法で何が出来るのか?」を考えることが必要だと感じました。


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