見出し画像

漁師たちで手を取り合い、豊かな漁場を次世代につなげる―尻池水産 尻池宏典さん【Think Global, Act Local #4】

「Think Global, Act Local」をキーワードに、“ローカル=地域”を拠点として環境問題に取り組む人を紹介するこの企画。
第3回は、神戸市を中心に木材のコーディネートをしているシェアウッズの山崎正夫さんを紹介しました。(山崎正夫さんの記事はこちら
 
4回目の今回、山崎さんからバトンを受け取ったのは、神戸市の漁師、尻池水産の尻池宏典さんです。

尻池さんは、神戸で活動する若手の漁師たちと一緒に「KOBE PAIR TRAWLINGS(神戸ペアトローリングス)」という団体を立ち上げました。海の環境を守り、次世代につないでいくために、漁業のPRや環境活動を行っています。午前7時半から競りが行われている神戸市長田区の駒ヶ林漁港を訪ね、尻池さんの活動について詳しくお伺いしました。(取材日は2023年2月13日)

山からの恵みを受けた豊かな漁場、神戸

ーー尻池さん
高校生の頃からアルバイトとして父親の船に乗せてもらって、漁にも出ていました。その頃は今よりも多くの魚が獲れていて。大量の魚を目の当たりにして感動し、将来この仕事を継ぎたいと思うようになりました。そして、高校を卒業してすぐに親のもとで漁師をはじめて、今年で26年になります。
 
神戸は貿易港のイメージが強いのですが、本来はとても豊かな漁場だったんです。魚崎という地名があるくらい、魚の宝庫でした。広葉樹が多く育っている六甲山からは、川や地下を通ってミネラル豊富な水が海に流れ着きます。そこに明石海峡からの潮の流れが混じり、たくさんのプランクトンが育まれることで、魚が集まるんです。

しらすを獲る船曳網漁の漁船、3隻セットになって漁を行う

この時期(2月中旬)は、底引き漁の時期でヒラメやクロダイ(関西ではチヌと呼ばれる)が獲れます。2月下旬からはイカナゴ漁が始まり、4月下旬から12月ごろまでは、本格的なしらす漁の時期になります。

実は、兵庫県はしらすの水揚げ量が日本一なんです。だけど、神戸の人にはあまり知られていないですし、漁師である私たち自身もかつては知りませんでした。しらすを獲った後は、和歌山などの他の地域で売ることが多く、地元で売ることに力を入れてこなかったからだと思います。こういった神戸らしい強みを、もっと広げていかなければと思っていますね。
 
この写真は昭和34年ごろの左義長(さぎちょう)祭りの写真です。港同士で漁場の優先権を争うもので、非常に激しいお祭りだったようです。
それくらい、このあたりは漁業が盛んな場所でした。

それが、15年くらい前からいろいろな種類の魚が獲れなくなってきて。過去の乱獲だけが原因ではなく、気候変動や海水温上昇、埋め立てなどによる潮流の変化、それに伴う海底環境の変化、市民生活や経済活動から出る排水による影響などさまざまな要因があり、特に海底に生息する魚介類の水揚が少なくなっています。日々魚が減っていくのが目に見えてわかるので、このまま漁を続けてもいいのか危機感を募らせていました。しかし、個人では何をしたらいいのかわからなくて。でも、私と同じ思いを持っていた人が、それぞれの港にいたんです。

危機感を胸に立ち上がった漁師たち

もともと港には縄張りがあって、手を取り合うことはほとんどありませんでした。しかし、漁師自身が変わっていかないと神戸から漁師がいなくなってしまうと思って、2〜3年前に動き出したんです。
神戸市漁協組合や兵庫漁業協同組合に所属する中堅、若手の漁師たちが港の垣根を超えてつながって「KOBE PAIR TRAWLINGS(神戸ペアトローリングス)」という団体を立ち上げました。

KOBE PAIR TRAWLINGSのメンバー

活動は、漁業のPRからスタート。ファーマーズマーケットに出店して、しらす丼や釜揚げしらすなどを販売しました。
地元の小学校へ漁師自ら出前授業にも行き、神戸の海ではどんな魚が獲れるのか、どんな漁法があるのか、山と海はつながっているんだよといった話などをしています。

また、今までやってきたことを地元に還元したいと思って、地元で子ども食堂も開催したり。近くにあるふたば学舎(旧二葉小学校)で、地元の婦人会に協力してもらって、月に1回仲間の漁師たちが獲った魚を食べてもらう場を提供しています。

海を守るために川や山を整備する

こういった活動をしているうちに、海を超えて、川や山を整備する活動にも広がっていきました。川の清掃をしたり、山の木々を間伐して植林をしたり。今後も、こういった川や山での活動を増やしていきたいと思っています。

例えば、競りで使うこのセイロ。今はプラスチック製なのですが、昔は木製でした。今後は、六甲山の間伐材を活用して木製のセイロに戻していくのが夢なんです。

現在使われているプラスチック製のセイロ

「KOBE PAIR TRAWLINGS」は5人のメンバーを中心に、利益を追求するのではなく、完全なボランティアで活動しています。

はじめは手探りでしたが、一人ずつ腹を割って話し合っていると、みんな同じように海を守って次世代に引き継ぎたいという思いを抱いていることに気づいて。今では、それぞれの港で築いたものを連携して、この団体の活動に落とし込んでいっています。
すると徐々に、周りの漁師の目が変わってきたんです。私たちの思いが少しずつ伝わって、シャイな漁師の心を動かして、行動を起こせる機運が高まってきました。

海のこと、魚のことをもっと知ってもらいたい

神戸のしらすをもっと知ってもらいたくて「こうべのしらす」という冊子を作りました。しらす漁の方法について書かれている冊子で、ファーマーズマーケットなどのイベント出店時や、出前授業の時に配布しています。また、神戸で獲れたしらすに「神戸夜明けのしらす」という商品名をつけて売り出しています。

もっとたくさんの人に漁業のことを知ってもらいたいので、子どもを対象に実際に船に乗って漁業体験をしてもらったり、競りを体験できるワークショップを開いたりしています。年に2回実施していますが、とても人気があって、40名の枠に毎回100〜200名の応募があるんです。
 
今後は、もっとWebを使って、漁のことを知ってもらう仕組みを作れたらと思っています。例えば、船にカメラをつけて、リアルタイムで漁の様子を見てもらえたら楽しいかなと。
 
駒ヶ林漁港では「海と、魚と、」という一般の方も購入できるマーケットを開催しています。当初漁師だけでスタートしたのですが、地域の方にも入ってもらって、自治会、婦人会、地元の人など地域ぐるみのお祭りになっていて、過去には一番多い時で3,000名くらいが集まったこともあるんです。

「海と、魚と、」の様子(2022年開催)

皆さんが今日から始められるアクションとして、海のことを身近に感じてもらって、自分たちの生活が海の環境に影響しているということを考えて行動してほしいなと思います。

例えば、自分の周りなどを除菌するとその場所は綺麗になるかもしれないですが、薬剤が流れ着くのは海です。いくら下水処理場で処理をしても、海には悪影響のものが流れていきます。自分の周りの環境は良くなっても、その先の環境は悪くなっているということに目を向けて気づいてもらいたいんです。
 
ここ関西圏には、多くの人が住んでいます。もともとは人の営みが多いところほど、栄養を含んだものが流れついて多くの魚が獲れると言われていました。ただ、限度を超えてしまうと環境が崩れてしまうんですよね。
 
これからは、私たちもどんどん外へ出ていき、漁や海についてさまざまな場所で話をすることが大事だと思っています。この活動を兵庫県だけでなく、全国へと広げていきたいです。
 

山崎さんから受け取ったバトンを次は、神戸を舞台にローカルをテーマにしたまちづくりを行っている小泉寛明さんにつなぎます。小泉さんは「EAT LOCAL KOBE」というファーマーズマーケットや、六甲山上の泊まれる森のシェアオフィス「ROKKONOMAD」などの運営を行っています。

***

尻池宏典さん、ありがとうございました!尻池さんのお話を通して、海の現状を知ることができました。日本は周りを海に囲まれています。海を見て綺麗だなと思うことがまず第一歩。この環境を守るために、身近なところからアクションを起こしていきたいと思いました。

次回は、バトンを受け取った小泉さんが登場します。お楽しみに!

尻池水産代表
尻池宏典さん

神戸市漁業協同組合 駒ヶ林浦漁業会所属
各浜の垣根を越え、中堅、若手の漁師達で一般社団法人「KOBE PAIR TRAWLINGS」を立ち上げ、神戸しらすのPRや、小学校への出前授業、子ども食堂などへの魚の提供を行っている。
海の環境だけではなく、六甲山の間伐や植林など、環境改善の取り組みも進めていきたいと考えている。

KOBE PAIR TRAWLINGS https://kobepairtrawlings.jp/
海と、魚と、 https://www.umitosakanato.jp/
2023年3月26日11:00-14:00に開催されます。詳細はこちら


Think Global, Act Local マガジンをチェック👇

ローカルを中心に、環境問題に取り組む人々のお話はこちらから!ぜひチェックしてくださいね!


この記事が参加している募集

SDGsへの向き合い方

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!