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【スローに歩く、北欧の旅#21】スウェーデンから届いた セーゲルステッド家の暮らし②

みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧での体験を紹介するこの連載。前回に続いて、スウェーデン北部に暮らすセーゲルステッド家のみなさんにインタビューをしました。今回は家事や家にまつわるお話を中心に伺いました。

取材協力、写真提供:Marcus Segerstedt、Chie Aoki Segerstedt

エコ製品は身近なもの

-いまみなさんが飲んでいるのは何ですか?

ちえさん:エルダーフラワーのサフトです。

-濃縮ジュースのような、水でうすめて飲むドリンクですね。

ちえさん:最初は水で薄めるとハッキリしない甘さで苦手だったのですが、今は大好きです。私はサフトに赤ワインを混ぜてサングリアのようにして飲むのが好きです。

-それはおいしそうです!旬のベリーなどを使って手作りされる方もいますよね。

ちえさん:夏には、ルバーブのサフトを作りました。つい砂糖を控えめに作りたくなってしまうので、子どもには酸っぱい!と言われ不評でしたが。サフトは、スーパーマーケットやイケアでも売っています。

ルバーブをどっさり収穫。葉は有毒なので食べられないが、茎の部分をジャムやパイなどにして楽しむ。

-スーパーマーケットでは、環境に配慮した製品はどのように流通しているのでしょうか。

ちえさん:エコ製品はほぼすべての製品が隣同士に並べて置いてあって、選ぶことができますね。安全な場所でとれたものであるとか、ラベリングもわかりやすくあるので選びやすいと思います。

洗剤なども環境に配慮したものが一般的で、日本の製品に比べると使い心地がマイルドというか、そこまで洗浄力が強くないので、熱いお湯を使って汚れを落とすなど工夫して使っています。

中古品店とDIYショップは必須

-最近、お引越しをされたんですよね。家具はどうやって揃えていますか?

マーカスさん:リビングにある大きな置き時計は、祖父が使っていたものなんです。伝統的な形で、これはレプリカなんですが、それでも60年くらい前に作られたものです。祖父とのいい思い出ですね。ほかにも祖母からもらった照明を使っています。

-ご家族の思い出とともに家具が受け継がれていくのはいいですね。新生活を始めるにあたって、家族や親戚から家具や生活道具をもらうという話も北欧ではよく聞きます。ほかにはリサイクルショップ(中古品店)で調達する方もやっぱり多いのでしょうか。

ちえさん:リサイクルショップはわが家の近くにもあって、みんなよく利用しています。開店時間に並んでいることもあるんですよ!こうしたお店は開店日や営業時間が限られているせいもありますけれど。フェイスブックにも中古マーケットのグループがあって、家具を売ったり、情報交換もしていますね。

ダイニングで使っている照明もリサイクルショップで買いましたし、前の住人が置いていった家具も一部使っています。リビングに置いているソファはちょうど先日、リサイクルショップで見つけたものなんです。

-グスタヴィアン・スタイル(18世紀のグスタフ3世の時代に生まれ、いまも親しまれているデザイン様式)のソファですね。

マーカスさん:そうですそうです!引き出すとベッドになるタイプで、キッチンソファといって、もともとは台所に置くソファです。いまだったらデイベッド的にも使えますが、昔の人は普通にベッドとして使っていたものですね。

-スウェーデンの博物館で、労働者の暮らしを展示しているのを見た時に、昔は台所にベッドを置いていたとの解説を読みました。かつては台所にベッドを置くのが一般的だったのでしょうか。

マーカスさん:そうですね、昔は今よりもずっと燃料が貴重だったので、ストーブのある同じ部屋で寝ていたんです。ひとつの部屋だけを暖めて、そこで寝れば効率がいいという理由ですね。

-なるほど。燃料を有効活用するためだったんですね。いまの家では、暖房はどうなっていますか?

マーカスさん:こちらの町はだいたいそうですが、セントラルヒーティング(地域暖房)で暖められています。この家にはもともと暖炉がついていたのですが、前の住人が改築でとってしまったらしく、いまはありません。

-北欧は冬が厳しいですが、家の中は本当に暖かいですよね。東京に来た北欧出身の人が「東京の家の方が寒い」と言っているのをよく聞きますもんね。古い家をリノベーションして暮らす方は多いのでしょうか。

ちえさん:そうですね。この家は50年代に建てられた家で、この辺りには同じ外観の家がいくつかあるのですが、中に入るとみんな違うんです。わが家は小さめの部屋が7つあるのですが、同じ間取りの家でも部屋同士をつなげて大きくしていたり。キッチンやリビングを大きくするのは多いですね。私たちは小さい部屋の方が落ち着くのでそのままにしていますが。

キッチンはセルフリノベーション。古い細工は残しつつ、床を張り替えた。

-日本からするとヨーロッパの家の部屋は広いのかな?と思いがちですが、小さい部屋もよくありますね。

マーカスさん:昔は1階と2階で別々の家族が住んだり、2~4家族で住むのも普通で、1部屋を賃貸にすることもあったみたいです。だから個々の部屋は小さくて、部屋数が多い間取りになっています。

ちえさん:地域にもよりますが、50年代は地下付で2〜3階建の家だったり、60年代はレンガの家が多いとか。年代が同じだと形が似ていたり、家の特徴があるのが面白いです。外壁の色は赤や黄色、白、薄緑色の家が多いですね。

マーカスさん:地下室があるのは50年代の家の特徴ですね。古い家は壁が厚くて頑丈です。一方で家の建設が増えた70~80年代は短い建設期間で建てられたこともあるせいか、見た目はきれいだけどあまり耐久性がない家も多いみたいです。

-窓は二重窓ですか?

ちえさん:この辺りは三重が普通です。二重窓と比べて、年間20~30%ほどのコスト削減になるようです。もちろん、窓を変えるのにもコストがかかりますけどね。

-セーゲルステッド家では、リノベーションは自分たちでしていますか?

ちえさん:はい、少しずつ進めています。天井と壁は自分たちで塗りました。クローゼットはいま塗っているところ。キッチンはマーカスが床板を変えてくれて、ひとまず現状のまま使っているのですが、取っ手やテーブルトップは変えようかなと思っています。

家のリノベーションはDIYショップを利用しながら自分たちで。

-DIYのお店は近くにありますか?

ちえさん:3店舗くらいあって、いつも回っています。最近バウハウス(ホームセンターのような店)がウメオにもできて。ペンキを買ったりしています。ペンキの色もいろいろあって、「ミッドナイトサマー」など色に名前がついていて面白いです。

ゴミ捨ての画期的な仕組み

-普段の生活でリサイクルは意識されていますか?

ちえさん:はい。スウェーデンはリサイクルには厳しいです。日本と違って、うちの地域は隔週に一度しかゴミ回収は来ません。庭に大きなゴミ箱が2つあって、1つは生ゴミ、もうひとつは燃えるごみ用。生ゴミは紙袋に入れて出しておくと回収されます。最初に見た時は驚いたのですが、ゴミ収集車からロボットみたいなアームが出てきて、ゴミ箱ごとガバッと持ち上げて、逆さまにしてゴミを回収するんです!だから機械対応の共通したゴミ箱があります。

ゴミを捨てるのにはお金がかかるのですが、回収する時にゴミの重さを測って料金が決まります。生ゴミはバイオ燃料にできるので、捨てる費用が割安になり1キロ0.9クローナ(12円ほど)。ゴミの種類で価格が変わり、燃えるゴミはこの倍くらいします。だから必死にゴミを増やさないようにするんです。

うちは生ゴミはコンポストにして、他のゴミは家からちょっと離れたリサイクルセンターに自分で持ち込んでいます。曜日や時間が限られているので手間はかかりますが、持ち込めばお金はかかりません。ダンボールや粗大ごみ、缶、ガラス、ペットボトルをはじめ、かなりの物がリサイクルできるんですよね。

コンポストは来春から「ぼかしコンポスト」も取り入れようと思っています。

-ぼかしコンポスト、ですか?

ちえさん:はい。生ゴミに米ぬかや発酵剤などの”ぼかし”肥料をくわえて、自宅でコンポストにする方法です。もとは日本発祥の肥料を作る方法で、こちらでも”Bokashi”とよばれて流行っているんですよ。コンポスト用の容器と発酵肥料が入ったキットもあります。

-それは知りませんでした!キットになっていれば、挑戦しやすくていいですね。スウェーデンで見ていいなと思ったのは、いらなくなった服や日用品、家具などを寄付できる、リサイクルショップの回収用ポストもあちこちにあること。あの仕組みは日本にもあるといいのになと思います。

ちえさん:そうなんです。教会の前にもポストがありますね。まだ着られる服なども、わざわざお店に持っていくのは大変だから近所にあると助かりますよね。

電気の使い方も工夫する

-スウェーデンでは電力を選ぶことができますよね?

マーカスさん:はい、電力市場は自由化されていて、消費者が選ぶことができます。スウェーデンでは水力と風力発電が選べて、グリーンでサスティナブルな電力がほとんどですね。

ちえさん:最近は専用のアプリで、地域によってどの時間帯にたくさん電力が使われているかがわかるんです。集中している時間帯は電気代が高くなるので、洗濯機をまわすのは夜にしようとか、アプリを見て決めるんです。朝はやっぱり、家事が集中する時間帯なのでいちばん高いです。天気によっても変動があるので、だんだんと価格を予測できるようになってきて、じゃあ洗濯は明日にしようとか。

-へえ!それはいいですね。使う時間を選べる人にとっては節約ができるし、電力量のコントロールに自分たちが関わっていると意識できるのもいいですね。

ちえさん:はい、エコラベルなどの仕組みもそうですが、目に見えてわかりやすくて、その上で選べるのがいいと思います。

-車は持っていますか?電気自動車は普及しているのでしょうか。

ちえさん:この辺りはバスしか通っていないので、車は生活に必須ですね。電気自動車はずいぶん増えたと思います。北部ですら増えています。

-これまでは、北部では電気自動車は普及しにくかったのでしょうか?

マーカスさん:はい、都会で使う分にはいいのですが、地方へ行くとチャージステーションがそれほどないんです。寒さが厳しい地方では、やはり電気だと何かあったらと思うと怖いですね。

ちえさん:冬はすごく寒いので、車のトラブルはよくあります。前の車の時にはドアを開けたら凍ってしまって、閉まらなくなった事件がありました。ドライヤーを持ってきてひたすら温めたんです。車に限らず冬はトラブルが多いですね。水道管が凍って水が出なくなることもあります。

-ああ、そういえばノルウェーで取材した時に、寒さが厳しい地域では家に暖炉をつけるよう推奨されていると聞いたことがあります。電気暖房だけだと、万が一なにかあった場合に命に関わるから、と。ウメオはいつ頃から雪が降りますか?

マーカスさん:11月でも降りますね。じつは11月がいちばん危ないんです。道は凍ってきているけれど、まだ大丈夫と思ってタイヤを交換していないから。

ちえさん:こちらの人はマイナス15度くらいでも平気で活動するんですよね。子どもは外で昼寝もします。これは初めての経験でした。

-赤ちゃんをベビーカーにのせたまま、外で昼寝をさせるんですよね。体が強くなると言われますよね。最初に、寒い冬の道端で見た時は驚きました。赤ちゃんがすやすや寝ているままのベビーカーが放置してある!と。

気温が低いなか、子どもはベビーカーに乗せて外でお昼寝させる習慣がある。

ちえさん:湖が凍ると、スケート遊びもしますね。

-凍った湖の上を犬と一緒に散歩したり、遊んでいるのを見たことがありますが、氷が割れて落ちてしまう危険はないのでしょうか。

マーカスさん:氷の厚さが1~1.5メートルくらいあれば大丈夫。真ん中の方までいくと危ないです。氷のむこうで、水が動いているのがわかる場所は危険。よく知らない湖は怖いですね。

凍った湖でスケートを楽しむ。家からゴールネットを持ってきてアイスホッケーをする子どもたちも。

-サウナはありますか?サウナといえばフィンランドが有名ですが、スウェーデンの家にもついていますよね。

マーカスさん:うちにはありますね。この辺りは、ついている家が多くて、半分くらいかな。フィンランドほどではないですけどね!スウェーデンは北部だとついている家が増えますね。

-サウナはどうやって暖めますか?サウナの後は雪の中に飛び込んだりするんでしょうか。

ちえさん:わが家のサウナは電気で暖めます。子ども達はサウナの後、雪に入りますよ。

リリさん:私の友達は雪の時には裸んぼうで外を走って、それからサウナに入ります!


今回は家づくりや、寒さの厳しい北部ならではの冬事情、そして日常生活でのエコな試みについて伺いました。ゴミのルールや電力代を節約するコツなど、普段の生活で意識せざるを得ない仕組みづくりは、さすが環境先進国だなと思います。さて次回はもうひとりゲストを迎えて、さらに深くスウェーデンの環境教育や、教育への考え方を伺います。

スウェーデンのカフェでこちらを見下ろしていた猫さんです。ちなみにスウェーデン語で猫はKatt(カット)というんですよ。それでは、ヘイドー(スウェーデン語でさよなら)!

プロフィール  森 百合子(もり ゆりこ)

北欧5カ国で取材を重ね、ライフスタイルや旅情報を中心に執筆。主な著書に『3日でまわる北欧』(トゥーヴァージンズ)、『北欧ゆるとりっぷ』(主婦の友社)、『いろはに北欧』(学研プラス/地球の歩き方)など。執筆活動に加えてNHK『世界はほしいモノにあふれてる』『趣味どきっ!』などメディア出演や、講演など幅広い活動を通じて北欧の魅力を伝えている。築88年の日本家屋に暮らし、北欧デザインを取り入れたリノベーションや暮らしのアイデアも実践中。 
HP:https://hokuobook.com
Instagram:@allgodschillun

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