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顔の見える取引でエコロジカルなまちづくりを―Lusie 小泉寛明さん【Think Global, Act Local #5】

「Think Global, Act Local」をキーワードに、“ローカル=地域”を拠点として環境問題に取り組む人を紹介するこの企画。
前回は神戸市の漁師、尻池水産の尻池宏典さんにお話を伺いました。(尻池さんの記事はこちら


5回目の今回は、同じく神戸の街を中心に活動している小泉寛明さんをご紹介。小泉さんはローカルエコノミーをテーマに、シェアオフィスやファーマーズマーケット、メディア事業などを手がけています。

小泉さんの拠点の一つである複合施設「KITANOMAD」を訪ね、その活動についてお話を伺いました。

ローカルの魅力に気づいて活動の幅を広げる

ーー小泉さん
神戸に住み始めてからこの土地の魅力に気付き、活動の幅が広がりました。現在は大きく3つの事業を行っています。
 
1つ目はスペース運営事業です。神戸の街中にある「KITANOMAD」や六甲山の上にある「ROKKONOMAD」という2つのシェアオフィスのほか、農村エリアにある古民家「farmhouse ケハレ」の運営や、阪急電鉄の高架下をクラフトマンたちのアトリエスペースとして活用するなどしています。

ROKKONOMAD

2つ目は、イベントやスクールなどのプログラム運営です。神戸の中心地・三宮などで「EAT LOCAL KOBE FARMERS MARKET」をほぼ毎週土曜日に開催していて、このマーケットでは、生産者から直接食材を購入することができます。

また、地産地消をテーマにした「FARMSTAND」という店舗の運営に加えて、今の仕事を続けながら本格的に農業を学びたい人のために「マイクロファーマーズスクール」という農業スクールを運営しています。

FARMSTANDの店内

3つ目は、個性的な物件に特化した不動産サイト「神戸R不動産」や、「EAT LOCAL KOBE」というWEBサイトや紙媒体などのメディア事業です。

EAT LOCAL KOBEの紙媒体

神戸という街は山と海が近く、コンパクトにまとまっているという特徴があります。非常に交通の便が良くて、日本国内や海外へのアクセスが良い場所です。
「神戸R不動産」のメディアの中で神戸の魅力を発信していたところ、全国から多くの移住者がやってきて、ここで起業したい人々との出会いがありました。そこで、この街にシェアオフィスをつくってみて、彼らの声を聞いてみることに。そしたら、みんな自分で何かをつくることが好きな「DIY精神」を持っていて、それと同時に、顔の見える取引を望んでいることが分かったんです。

顔の見える取引 ローカルエコノミー

ーー小泉さん
ローカルで経済を循環させる「ローカルエコノミー」を大きなテーマに掲げ、事業に取り組んでいます。他の地域で生産したものを販売する取引ではなく、生産者と消費者が顔の見える取引を行うローカルエコノミーは、地球環境にとっても負荷の少ない経済のかたちです。
 
ローカルエコノミーをつくるには、農業などの食に関わる仕事、大工や設計などの建物関連の仕事、あらゆる生活の道具を製造するクラフトの仕事、地域での体験を提供する観光の仕事の4つの業種が必要であると考えています。彼らは材料を自分で仕入れて、商品は自分で、または知り合いにつくってもらい、共有のコミュニティに参加して共に販売しています。ローカルで仕事をつくり出して、人とお金を自分たちの近くで連鎖循環させているのです。
はじめは個人事業主としてやっていた人が、だんだん人を雇えるくらい事業を大きくしていき、やがて雇われていた人々も独立していく。空いたポジションにまた若い人が雇用される。このような流れが、これからの地方都市では必要なことなのではないかと思っています。

これからのローカルエコノミーをつくる4業種

循環型の仕事をつくっていくということ

ーー小泉さん
これまでの主流は、材料をローカル圏外から大量に安く仕入れて、大都市の専門家にコンセプトをつくってもらい、地方都市や外国で大量に生産して、小売店などで販売するというもの。その結果、大都市の企業に売上とノウハウだけがたまっていきます。実際、神戸市の統計データでも、クリエイティブ産業のノウハウが年間約3,000億円分、地域外に流出しているというデータがあります。

我々のエリアディベロプメントの仕事は、神戸市の課題を解決するために市の政策とも伴走しながら行っています。神戸には「山」「農村」「都市」の3つの要素があるので、山や農村、都市の中にすでにあるものを活用して、もう一度自分たちの力で商品やサービスをつくっていこうと思っています。

それと同時に、サーキュラーエコノミーの考え方も大切にしています。この図は「バタフライダイアグラム」といって、サーキュラーエコノミーの概念として、土に還るものと還らないものを分けて考え、これらのサークル(循環)をつくっていこうというものです。

この中の、メンテナンスやリユース、再製造、リサイクルという活動から、一つひとつ仕事を生み出していく。循環型の経済をつくっていきたいというのが大きな目標でありつつ、まずはこのサークルをつくることが、ローカルエコノミーの基盤となっていくのだと思います。

バタフライダイアグラム

こちらの図「価値の氷山」にあるように、世の中には、お金を生む仕事と、お金を生まない仕事があります。お金を生む仕事は氷山の上の部分であり、実際水面の下の部分では無償で行われているような仕事がたくさんあると聞きます。
 
私は、営利の事業と非営利の事業の両方が混ざり合いながら、非営利事業にもお金が流れていく仕組みが理想だと考えます。アイデアを言葉にするだけではなく、実際のビジネスに落とし込み、実践しながら啓蒙していくことが、自分の役割だと思っています。
 
1972年にローマクラブから発表されたレポートに「成長の限界」というものがあります。「このまま経済の成長と人口の増加が続くと、地球上の資源が枯渇してしまう」と、大量生産大量消費型の社会に対して警鐘を鳴らしたものです。レポートから50年以上経った今、まさにそのような状況が起きています。
このようなことからも、顔が見える商売や、手づくりの仕事を選ぶ人が増加傾向に。
この動きはまだ緩やかではありますが、徐々に加速していくと思っています。

「価値」の氷山(出典:NL/ROKKO

自分でつくって育てるということ

アメリカや東京などでのまちづくりの経験を経て、ローカルで活動している小泉さんが、日頃心がけている行動とは何かをお伺いしました。

ーー小泉さん
仕事で忙しい時も、1日に1〜2時間くらいは空白の時間をつくるようにしています。自転車に乗るのが好きなので、自転車で須磨海岸などに行って、海に入って帰ってきたり。

時間がある時は、車で行っても30〜40分くらいかかる淡河町や、明石の方まで自転車で移動することもあります。自転車に乗っていたら、デジタルデトックスになるし、街の風景も見ることができるし、体も動かせるし、良いこと​​尽くめ。

あと、日々の生活の中ではコンポストをもっとやっていきたいと思っています。生ゴミの量が減ることで環境負荷も減らせますし、肥料として土に戻すことができるのでこれを街のレベルでやっていきたいと思っています。

みんなに気軽に始めてほしい一歩は、野菜などの植物を自分で植えて育てることですね。そうすることで、育てることの難しさと、自分で育てたものがいかに美味しいかということを実感できると思います。それだけで、消費の仕方もちょっとずつ変わってくるはずです。

もう一つは家の補修などのDIY。これらのことを若いうちから身につけておいたら、食べることと、住むことに対する概念が変わり、お金を稼がないといけないという概念が消え、怖いものはないんじゃないかな。

マイクロファーマーズスクールの様子

***

小泉さん、ありがとうございました!小泉さんのお話を通して、顔の見えるコミュニティの中で自然や都市との接点を持ちながら仕事をすることの大切さを知ることができました。自分で使うものは自分でつくってみる。身近なところからアクションを起こしていきたいですね。

有限会社Lusie
小泉寛明さん


兵庫県生まれ。関西学院大学経済学部卒。カリフォルニア大学アーバイン校ソーシャルエコロジー学部都市計画修士号。1999年森ビル株式会社入社。2006年より株式会社アイディーユープラス取締役。2010年神戸にて有限会社Lusie代表就任。「自転車10分圏内のエリアディベロプメント」を志向し、神戸R不動産事業をスタート。一般社団法人KOBE FARMERS MARKET代表理事。「神戸から顔の見える経済をつくる会」代表。

有限会社Lusie    http://kobe-relocation.com/
EAT LOCAL KOBE  https://eatlocalkobe.org/


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