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【スローに歩く、北欧の旅#20】スウェーデンから届いた セーゲルステッド家の暮らし①

みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧での体験を紹介するこの連載。

今回はスウェーデン北部に暮らすセーゲルステッド家のみなさんに、オンラインでインタビューをしました。スウェーデンの生活をはじめ、家庭や学校など普段の暮らしのなかで、リサイクルや環境、気候問題についてどのように向き合っているかを3回に分けてお届けします。

取材協力、写真提供:Marcus Segerstedt、Chie Aoki Segerstedt

セーゲルステッド家が暮らす家。赤茶色の外壁はスウェーデンの伝統的な家でよく見られるもの。

スウェーデン北部での暮らし

-家族構成を教えてください。

ちえさん:私たち夫婦と、娘のリリとメイヤの4人家族です。上の子はいま8歳で学校の2年生、この秋に上の学年になります。下の娘は3歳です。スウェーデン北部最大の町であるウメオから15kmほど離れた小さな町に住んでいます。

左からメイヤちゃん、マーカスさん、リリちゃん、ちえさん。

-ウメオは、首都ストックホルムから飛行機で1時間ほど北上した辺りですよね。ウメオはどんな町なのでしょうか?

ちえさん:学生の町で、大きな大学があります。それから自転車の専用道路がスウェーデンで最初にできた町と聞いています。この辺りもそうですが自動車道の横には自転車の専用道路があって、どこでも自転車でいけるように道路が整備されています。右側通行などルールも徹底していて、みんなヘルメットをつけて乗っています。

私たちが住んでいるのは小さな町なので、町中はどこかに出かけると必ずと言っていいほど知り合いに出会います。上の娘はこの町でいちばん大きな学校に通っているのですが、一学年に4クラスあって1クラスは22~3人ほどいます。

毎朝、メイヤちゃんを保育園へ送るのはマーカスさん。自転車で送り迎えをすることも多い。

-ご家族の一日のスケジュールを教えてください。

ちえさん:夫は下の娘を朝7時半頃に保育園へ送ってから会社に行きます。上の娘は今では1人で学校に行けるようになりました。娘の学校では朝7時半から朝食が出ます。スウェーデンでは一般的なサービスで、誰でも無料で利用できるんです。

-学校で朝食が出るんですか!それは朝の準備がラクになりそうですね。

ちえさん:そうなんです。起きて着替えて、とにかく学校へ行けばいいので朝のストレスがなく、とても助かっています。こちらは共働き家庭が多いので、クラスの半分くらいは利用しているようですね。

-学校での食事にも、ベジタリアンメニューはあるのでしょうか。

ちえさん:ビュッフェ形式でベジタリアンメニューがメインの日もありますが、食べられない子どもに配慮して別の副菜も出ています。牛肉をなるべく使わないメニューがあったり、工夫されているなと思いますね。例えば下の写真は「Potatis bullar」とよばれるハッシュドポテトのようなじゃがいも料理で、リンゴンベリージャムを添えていただきます。

リンゴンベリー(こけもも)は北欧の食卓で親しまれているベリーで料理にも使われる。

-コロッケみたいでおいしそうですね!ジャムを添えるのが北欧らしいです。そのあと、授業は何時頃まであるのでしょう。

ちえさん:学校の授業は1時半までです。こちらは学童保育と学校が一体化していて、朝6時半~8時の授業前と放課後は学童になります。日本のようにみんな一緒に下校するというよりは、お迎えが来る子もいれば、自分で帰る子もいて、時間になったらそれぞれ自由に帰る感じですね。

-ちえさんとマーカスさんは何時頃に出勤されるんですか?

ちえさん:私はいま小中学校の食堂で、ハーフタイムのシフトで働いています。朝の7時半からのシフトだと一旦、朝食休憩が8時半から30分ほどあって、12時半〜1時にお昼の休憩を挟んで、3時に仕事が終わります。

マーカスさん:私の会社はフレックスタイム制で7時〜9時の間に行けばいいのですが、ミーティングが8時にあるのでそれまでに行く人が多いですね。私は娘を保育園に送ってからなので少し遅れてしまうのですが。そのぶん、朝6時半から家を出る7時頃まで家で仕事をしていて、その分も就業時間にカウントされます。それで8時間勤務として4時半頃には終了して帰宅。家で家族みんなで夕飯を食べます。5時頃まで残業をすることもありますが、その超過分はためておいて子ども達の面談や検診に連れていく時間にあてたりしていますね。

-残業分をためて代休のように使うんですね。北欧では仕事の終わる時間が早いとよく言われますが、そのぶん朝が早いですね。そういえば会社でもフィーカ(コーヒーやお茶を飲んでひと息つく時間)をすると聞きました。

マーカスさん:はい。9時半と3時くらいにフィーカ休憩があります。会社にもよると思いますが、前の職場ではフィーカの時間をとても大切にしていました。

-学校でもおやつの時間があるそうですね?どんなものを食べるんでしょう?

リリさん:パンとヨーグルトとか。クネッケ(ライ麦を使った硬いクラッカーのようなパン)はいつもあって、たまにソーセージが出ると嬉しいです。ホットドッグにして食べます。ふわふわのパンが出ることもあります!

-スウェーデンの人はホットドッグが好きですよね!コーヒータイムといえばシナモンロールと一緒に楽しむ印象がありますが、おやつの時間にはシナモンロールも出るのでしょうか?

ちえさん:シナモンロールが出るのは、シナモンロールの日(10月4日)だけなんですよね。この日は学校でも職場でもシナモンロールが出ますよ。

-年に一度の特別なおやつなんですね。夕食の時間は、北欧の国々全般にいえることかもしれませんが、けっこう早いのでしょうか。

ちえさん:そうですね、4時〜5時頃に夕食をとる家庭は多いと思います。それで夕食後にトレーニングに行ったり、子どもと遊ぶなど、食後の時間を有意義に使っています。

宿題やテストはあるの?

-リリさんとメイヤさんは夕食後に何をしてますか?宿題はありますか?

ちえさん:お絵かきをすることが多いです。ふたりで人形遊びをしたり、絵本を読んだり、ゆったり過ごす事が多いですね。テレビやiPadも見ますが、それは夕食の前まで。夏は明るいので、夜7時頃まで外で遊ぶことが多いです。週に一回はフロアボールという室内ホッケーの活動を学校の体育館でやっているので、夕食後に行っています。子ども達は8時半くらいには寝ます。

マーカスさん:宿題は基本的にないんです。家はリラックスする場所ですから。

ちえさん:その考え方がスウェーデンらしいなと思います。リリの学校では音読用の教材で物語を読んで、「主人公はどう思った?」といった読解問題がプリントで一週間に一度出ていますが。スウェーデンの音読用の教材は日本の教科書とは違って、物語の本なんです。

-スウェーデンの学校では、いわゆる教科書がないと聞きました。

ちえさん:ワークブックみたいなもの、クロスワードなどの教材はありますが、先生がプロジェクターで授業をするのが普通なんですよね。最初はびっくりしたんですけど、逆にこちらの先生は日本では全教科に教科書があることに驚いていました。低学年だと文字が苦手な子も多いから、プロジェクターで見せたほうが伝わるだろうと。だから親は子どもが学校で何を学んでいるか、あまりわからないんです。テストがないので、覚えなくていいというのもありますね。

-テストはないんですか?

ちえさん:ちゃんと理解ができているかどうかのチェックはあるのですが、それが成績につながるわけではないんですよね。進学の評価は6年生から始まります。評価をもとに公立と私立の中学校から選べて、私立学校でも学費無料で行くことができます。

-大学まで学費は無料なんですよね。

ちえさん:はい、もし私が行くとしても無料です。誰が行くにしても学費はかかりません。また学生ローンがあるのでお金を理由に学ぶのをあきらめなくていいんです。ローンは月割で全額をもらうか、生活できるだけの額を借りるか、どちらかを選ぶ事ができます。

-一度、社会に出てから大学に戻って学ぶ人も多いと聞きます。

ちえさん:そうですね。勉強はしたいけど、今は仕事をしてみたい。やりたいことが見つかったら学校へ行くという人は多いです。20歳の姪っ子にも聞いたのですが、高校卒業後にギャップイヤー(大学入学前に旅や社会活動などさまざまな体験をする期間のこと)を取る人は多いようです。そうした選択ができるのは羨ましいですね。

とりあえず進学する人はあまりいなくて、大学にいったらみな必死に学びます。学費をサポートしてもらっている分、ちゃんと学ばないといけませんから。学生ローンのサポートがあって、学びたい時に専念できるシステムは、とてもありがたいですよね。私も「今は何か勉強しているの?」とよく聞かれるんです。

-リリちゃんは、習い事はしていますか?

ちえさん:いまは日本語を習っています。スウェーデンの子どもは誰でも母国語教育を受ける権利があって、親と子どもが希望を申請すると、自治体が先生を派遣してくれます。1週間に1回、1時間ほど学校に来てくれてレッスンを受けています。今はオンラインですが。これも無料のサービスです。母国語教育のために、学校にはさまざまな国の先生が来ていますね。

-そういえばスウェーデンで図書館をいくつか見てまわった時に、子ども向けの絵本がさまざまな言語で揃っていたのが印象的でした。学校では、環境について学ぶ授業もあるのでしょうか?

ちえさん:リリはまだ2年生なので環境の教育というよりは、森と親しむ時間を大事にしているようです。トロール(北欧の森などに住む妖精)の話をしたり、工作をしたり。どんなおうちに住んでいるかな?とか、どんな動物が住んでいるかな?とか、ひとつのテーマを深く学ぶ印象がありますね。

-トロールは北欧の絵本や物語にかかせない存在ですよね。日本人にとっての妖怪的な存在というか。

ちえさん:とくにテストや成績評価があるわけではないので名称を記憶するような学び方ではなく、彼らは何を食べて、どのように移動するのだろう?とひとつのテーマを丁寧に追います。学校からも近いので毎週、森に行く時間があって、ただ遊ぶことも多いですし、森でフィーカをすることもありますよ。

小さな頃から遊び場として、またリラックスする場所として、森は身近な存在。

森では何をする?

-ご家族でも森には出かけますか?ベリー摘みやきのこ狩りなどもしますか?

ちえさん:よく行きます!小さな町ですから、わが家のレジャーといえば森に出かけることくらいなんですよ。ブルーベリーやリンゴンベリーなどのベリーをよく摘みに行きます。キノコは食べられるものと毒のあるものの見分け方が難しいので、秋休みに夫の両親の住む山の方へ行った時にはしています。リンゴンベリーは9月の終わり~10月頃が旬なのですが、その頃は狩猟も始まるので気をつけないといけないんです!

-それは怖いですね!マーカスさんはハンティングはしますか?

マーカスさん:私はしないのですが、父がしていましたね。スウェーデンでは伝統的なヘラジカのハンティングです。小さなグループに所属していて、私が小さい頃はしとめたヘラジカをみんなでさばいて食べていました。ヘラジカは大きいと300キロもあるんですが、無駄にしないようにみんなでシェアして食べます。解体するための場所もあったんですよ。

-ヘラジカは市場やレストランでもおなじみの味ですよね。旬の味はよく食べますか?

ちえさん:そうですね!ルバーブの時期、ブルーベリーの時期と旬になるとひたすら食べますよ。子どもはやっぱり、同じだと飽きちゃうんですけれどね。毎回あれこれレシピを変えて出してみるのですが「また?」と言われたり。きのこも私は大好きですけれど、子ども達は嫌がるんです。

-スウェーデンのきのこは味も香りも強いですもんね。それがおいしいわけですが。きのこも北欧の食卓にかかせない味ですが、どんな風に食べるのでしょう?

ちえさん:トラットカンタレラというきのこが好きで、バターとガーリックで炒めてトーストにチーズと一緒にのせてオーブンで焼いて食べるのがおいしいんですよ。

スウェーデンの人々が大好きなきのこ、トラットカンタレラがかごいっぱいに。

-日本語では「ミキイロウスタケ」と呼ばれる、黄色くて笠がひらひらとしたきのこですね。うちにあるスウェーデンのキッチンクロスにも、トラットカンタレラらしきイラストが描かれています。そういえば金曜はタコスの日とか、まったりフライデーとよばれる習慣がありますよね?

ちえさん:よくご存知ですね!まったりフライデーは、ポップコーンを食べて映画を見るんです。スウェーデンでは金曜日は家族で過ごす日とされているんです。タコスも調理なしで簡単に食べられるから、のんびり過ごすのにちょうどいいんです。実際、そういう家は多いですね。金曜日は学校のお迎えも早いですし。

マーカスさん:会社でも3時くらいに帰っちゃいます。4時半にはもう誰もいませんね!


学校で朝食が出る、教科書がない、学校でもベジタリアンメニューを選べる、森の存在……セーゲルステッド家からのぞくスウェーデンの暮らしには興味深いエピソードがたくさんありましたね。次回は住まいづくりの話、ゴミや電力事情など家や家事にまつわるお話を聞いていきます。どうぞお楽しみに!

スウェーデンのカフェで、フィーカをしていた時に目があった猫さん。スウェーデン語で「フィーカ(お茶)しませんか?」は「Ska vi fika?(スカ ヴィ フィーカ?)」と言います。スウェーデンの暮らしにかかせないフレーズ、ぜひ覚えてみませんか?

プロフィール  森 百合子(もり ゆりこ)

北欧5カ国で取材を重ね、ライフスタイルや旅情報を中心に執筆。主な著書に『3日でまわる北欧』(トゥーヴァージンズ)、『北欧ゆるとりっぷ』(主婦の友社)、『いろはに北欧』(学研プラス/地球の歩き方)など。執筆活動に加えてNHK『世界はほしいモノにあふれてる』『趣味どきっ!』などメディア出演や、講演など幅広い活動を通じて北欧の魅力を伝えている。築88年の日本家屋に暮らし、北欧デザインを取り入れたリノベーションや暮らしのアイデアも実践中。 
HP:https://hokuobook.com
Instagram:@allgodschillun

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