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捨てるのではなく、次のものづくりに託す。『ITONAMI』山脇耀平さんの服との向き合い方

着る人にとっても、作る人にとっても、幸せなデニムとの付き合い方を届けたいーー

今回お話を伺ったのは、“デニム兄弟”の愛称で知られ、岡山県児島を拠点とするデニムブランド『ITONAMI』代表取締役COO・山脇 耀平(兄)さんです。

ITONAMIの取り組みは、兄弟のデニム愛溢れるものばかり。服の染め直し『fukuen』や、不要になったデニム回収プロジェクト『FUKKOKU』、服づくりの過程を一緒に楽しむ『服のたね』など。「買って終わりではない、服との付き合い方」を提案してくれます。

私たちが毎日の暮らしの中で実践できる、地球にやさしいアクションを教えていただきました。

「ITONAMI」代表・山脇 耀平さん
株式会社ITONAMI共同代表 1992年生まれ、兵庫県加古川市出身。大学在学中の2014年、実の弟とともに「EVERY DENIM(エブリデニム)」を立ち上げ。瀬戸内地域のデニム工場と直接連携し、オリジナル製品の企画販売をスタートする。2019年岡山県倉敷市児島に宿泊施設「DENIM HOSTEL float」をオープン。2020年ブランドを「ITONAMI(イトナミ)」にリニューアル。


職人の想いに触れて「デニムを大切にしたい」と価値観が変わった

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───本日は、よろしくお願いします!最初に、ITONAMIとして大事にしている価値観や、環境課題に対してどのように考え、取り組んでいるのかを伺いたいです。

まず、ファッション業界としてアプローチの仕方はいろいろあると思っています。たとえば、素材をオーガニックに変えたり、環境に負荷を掛けない生産方法を導入したり、消費者の意識を変える啓蒙活動をしたり。

そのなかでもITONAMIは、「ものを捨てず、愛着をもって長く使うこと」を大事に、環境課題に向き合っています。むしろ、私たちひとりひとりにできることは、そこから始まっていくのではないかと。

───そう思う背景を、ぜひ詳しく教えてください!

まず僕たちの原体験からお話ししてもいいですか?

もともと幼いころから、兄弟そろってジーンズが大好きでした。買ってもらったジーンズは、長く大事に履いていた記憶があります。でも成長するにつれ、流行りや最新の服を買っては、長く使わず、また新しいものを買って...と。

───今の山脇さんからは想像し難い...。

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そうなんです。自分の消費行動を見直したのは、デニム職人との出会いがきっかけでした。大学生だった僕は、デニム一本一本に、職人の技術や情熱が宿っていることを知り、丹精込めて作る姿勢に胸を打たれて。なのでブランドを立ち上げた当初も、「環境のために!」と意識していたわけではなく、もっとたくさんの人に職人の技術や想いを知ってほしい。そして、愛着をもって長く履いてほしい、その一心でしたね。

───「環境配慮」ではなく、「職人さんへの想い」を起点に今の活動へ広がったのですね。

とにかく長く愛着をもって着てもらうための企画や提案をし続けた結果、環境に配慮した取り組みとしても評価いただいているのかな、と思いますね。

捨てずに、次のものづくりに託す価値を感じてもらいたい

FUKKOKU_よこ2

───そんなブランドとしての想いを形にするため、具体的にどのようなプロジェクトが動いているのでしょうか?

最近では、個人で不要になったデニムを回収し、もう一度わたの状態に戻して、新たな製品を作り販売する『FUKKOKU』をリリースしました。

コンセプトは、 "メイド・イン・わたしたち"。

いろいろな地域・企業に協力してもらい、それぞれのお店で不要になったデニムを回収しました。完成した生地は、ITONAMIの製品だけでなく、協力してくださった地域の飲食店、宿泊施設のエプロンやクッションカバーになり、それぞれの土地へ戻っていきます。

───生産者と消費者の距離がグッと近くなる企画だなと感じました。

FUKKOKU_プロセスSNS規格_アートボード 1

ありがとうございます。ふだんはできあがった製品をお店で買うことしかできなくても『FUKKOKU』を通じてリサイクルに出せば、間接的にものづくりにかかわれる。不要になった服を捨てるのではなく、次のものづくりに託す価値を感じてもらえたらうれしいですね。

愛着をもてる服選びが、地球にやさしいアクションにつながる

カバーオール
リサイクルデニム カバーオール

───私たちが毎日当たり前のように履いているデニムですが、ファッションの環境課題に関して「ここはぜひ知ってほしい!」という現場の声も伺えたらと思います。

破棄される服の量が、圧倒的に多いことが問題だなと感じます。どれだけ環境に配慮された服でも、10着のうちの2着しか売れず、8着は捨てられていたらあまり意味がありません。

大量生産・大量消費は、価格や品揃えを重要視する生活者のニーズに応えようとした結果でもあります。生産者だけの問題ではないと認識してもらえると、ものの見方も変わってくるのかなと思いますね。

───服の破棄を少しでも減らすため、私たちにできることはあるのでしょうか。

服の選び方が、もっと多様になるといいなと思います。こんなに服が溢れているのに、誰かの「これ、いいらしいよ!」といった情報に流されて、「安いから」「環境にいいから」と客観的な指標で服を選んでいる人が多い気がします。

飛びついて買っても、結局あまり愛着がもてずクローゼットに閉まったままになってしまったりしますよね。いくら環境に配慮された服でも、すぐに買い換えたり、捨ててしまっては同じなので、もっと自分なりの理由で服選びを楽しんでもらいたいです。

───愛着をもてる服選びが、破棄される服の量を減らす。これなら楽しみながら地球にもやさしいアクションを続けられそうです!

もっと言うと、選ぶ時点ではあまり厳しい目でジャッジしなくてもいいのかなと思います。もちろん環境に配慮された服であることに越したことはありません。でも、情報だけを見ると、このブランドのほうが正しい、この素材を使っているところが正しい!と、正しい合戦になってしまうので。気にしすぎて純粋にショッピングを楽しめなくなるのも不健全かなと。

デニム(縮小)
リサイクルデニム イージーパンツ

───たしかに、環境課題にアンテナを張っている人ほど、「こっちのデザインがいいけど、エシカル商品ではないから買うのは心苦しいな...」とためらってしまう人もいるのではないかと思います。

そうそう!でもそれよりも、なるべく長く使うための考え方やアイデアを大切にしたいですね。今の世の中、安い商品でも品質はさほど変わらないと思っていて。ある程度はきちんと使える。

だからこそ、「何を買うか」よりも「買ったあとどう使うか」。すぐに買い換えず、長く使い続けるためにはどうすればいいか、自分なりの工夫を編み出すほうが大切かなと。買ったものをどう生かすかは、自分次第です。

自分にとっても、地球にとっても豊かなファッションの楽しみ方

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DENIM HOSTEL floatのお部屋の様子

───ありがとうございます!最後に、私たちが毎日の暮らしの中でできる「ものを捨てずに長く楽しむための心がけ」があれば教えてください。

デニムも長く履いていると、汚れや色褪せがでてきます。でもそれもひとつの味になるというか、新品の頃とはまたちがった風合いを楽しむのもいいですよね。

トレンドや流行り、高級ブランドといった市場価値に沿って買い換える楽しみ方もありますが、それだけだと他人の決めた価値の中でしか楽しめない。

クタクタになったデニムは、ほかの人にとっては価値あるものではないかもしれないけれど、じっくり時間をかけながら、自分だけの特別なデニムになっていく。お金では買えない「自分だけの価値」です。経年変化を楽しむ姿勢は、ものを捨てずに長く楽しむ心がけのひとつだと思いますね。

───環境にとっても、自分にとっても、豊かさをもたらしてくれる服との付き合い方だなと感じました。

そうですね。ひとりひとりが、服を捨てずに大切に持ち続ければ、大量生産をする必要がなくなり、大量に破棄される服もなくなる。今日明日すぐに世界は変わらなくても、ひとりひとりのアクションによって社会の流れは少しずつ変わっていくはずです。私たちにできることから始めていきましょう。

*  *  * 

自分が楽しみながら続けられることこそ、持続可能な環境課題の改善につながる。デニムを作る職人さんへの愛、服と長く付き合ってほしいという願いが、ITONAMI・山脇さんが考える地球にやさしいアクションにつながっていました。

写真提供:ITONAMI
取材・執筆:貝津美里



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