見出し画像

【スローに歩く、北欧の旅#22】スウェーデンから届いた セーゲルステッド家の暮らし③

みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧での体験を紹介するこの連載。前回前々回に続いて、スウェーデン北部に暮らすセーゲルステッド家のみなさんにインタビューをしています。

第3回目では、中学生の子どもをもつ、マーカスさんの妹のスティーナさんにも加わってもらって、さらに学校での環境教育や考え方についてお話を聞きました。

取材協力、写真提供:Marcus Segerstedt、Chie Aoki Segerstedt

環境を学ぶタイミングは?

-スウェーデンといえば環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが有名です。子ども達にとってどんな存在なのでしょうか。

スティーナさん:グレタさんのことはみな知っていると思います。若い人たちにとってのロールモデルですよね。私の子どもたちも彼女がいかに勇敢かを理解しています。グレタさんがストックホルムでやったように、ここウメオでも市庁舎前で金曜日にデモをしていたんですよ。

ちえさん:うちの子たちはまだ小さいのでグレタさんのことは知りませんが、彼女だけが特別な存在ではないですね。子どもの頃からベジタリアンだったり、環境を意識している子どもは多いです。例えば、子どもの集まりでホットドッグとアイスクリームが出る場合も、ミルクフリーを選ぶ子もいます。「私はベジタリアンだから」と、子ども達も当たり前のように口にします。

森の中にある、リリちゃんとメイヤちゃんの秘密基地のようなお気に入りの場所で人形遊び。

-中高生になると環境について学ぶ機会は増えるのでしょうか。

スティーナさん:環境の話は学校でもたくさんします。トイレットペーパーの芯など身近なものをリサイクルして工作をするコンペもありますし、国際的なコンペもあるんですよ。

小学校前のプレスクールから学校生活を通じて、環境について学ぶ機会は折々にあります。プレスクールでもゴミの仕分けやリサイクルについて学び、ゴミをポイ捨てしてはいけないとしっかり学びます。

娘の学校では森の一部を写真にとって、そこで何が育っているのか、穴を掘ってみたら土がどんな様子だったか、季節によってどう変わるかを観察しました。道路ができたり、飛行機が飛ぶことで、植物や動物にはどんな影響があるかと考えます。苔があるのは森が健康である証拠だとか、倒木もカブトムシの住処として必要であることなど、生態系について自然に学んでいくんですね。そして森へ出かけた時に残していいのは足跡だけで、ゴミは絶対に持ち帰ることなども。

大きなアリ山。うっかり足を踏み入れるとアリの大群に襲われるので注意。こうした自然のルールは小さな頃から学ぶ。

身近に考えるための工夫

スティーナさん:子ども達がまだ幼い頃、幼稚園の先生たちが人気の映画『アナと雪の女王』のお話を気候変動のお話に翻案して演じてくれたんです。気候変動で、氷がすべて溶けてしまった!という話に変えて劇で演じていました。もう10年近く前のことですが、子ども達にとってはかなりインパクトがあったようで、いまだに覚えているんです。

-幼稚園や学校生活でも環境の問題が身近なんですね。

スティーナさん:私自身は15歳の時(25年前)に畜産動物の酷い現実を知ってからベジタリアンになったのですが、当時は学校でもあまり環境への意識はなく、ベジタリアン対応もありませんでした。だから申請して、特別にベジタリアン給食の対応をしてもらいました。

ちえさん:こちらに移住してから環境や自然について意識する機会は増えました。行動を起こしている人が身近に多くいることもあり、子ども達と環境について話すことも確実に増えましたね。

-考えたり、行動するハードルが低いんでしょうか。

ちえさん:身近というのが一番の感覚ですね。環境の問題は自分たちの問題だなと。子どもの頃からそうなんですね。環境に限らず子どもから学ぶことは本当に多いですね。

例えば、いろんな人がいるっていうのは、この国では当たり前のこと。ある子どもが遊んでいて、髪の毛が長くて女の子っぽい格好をしているのを見て「あの女の子が…」と言ったら、娘に「女の子かどうかはわからない。髪が長い男の子もいるし、ただ好きでスカートを履いているだけかもしれない。こっちは決められない」と言われて、ハッとしたり。学校でも同じで、先生がわざわざ説明することもしません。

湖が見える近所の丘で、フィーカやグリルを楽しむ。夏はブルーベリー摘み、冬はソリ滑りもできる。

誰もがそのまま認められる社会へ

-毎年3月21日、世界ダウン症の日には左右で異なるソックスを履いて、ダウン症への理解を深めるロック・ザ・ソックスという試みがありますよね。もともとスウェーデンの子どもが考えたアイデアだそうですが、リリさんの学校でもやっていますか?

ちえさん:はい、「みんなが違っていいんだよ」と伝える日で、リリの学校でもメイヤの幼稚園でもやっています。その時期は図書館の児童館や絵本読みの時間でもダウン症の子のお話を読んだり、他にもいろんな家族があるとか、いろんな人がいるよと学ぶ絵本を読み聞かせします。お母さんが二人いる家庭もあるし、いろんな家があっていいね。みんな違って、いろいろでいいんだよねと。

-「可愛い」という褒め方は、あまりしないと聞いたことがあります。

ちえさん:幼稚園でもそういう褒め方はしないですね。私はつい「可愛い」と言ってしまいますが、可愛いヘアバンドをしていたとしても、服装についてのコメントはしないですね。先生方も気をつけているんだと思います。

マーカスさん:そうですね。スウェーデンでは外見を褒めたり、人に対して可愛いという機会は日本よりは少ないですね。誰かを可愛いということは、他の人のことを可愛くないと言っていることにもなってしまう。ジャッジしてることになってしまいますから。みんな平等で、みんなそのままで認められるべきという考え方なんです。

こうした考え方は、私が幼い頃にはそれほどありませんでした。最近は小さな子どものうちからグループワークをして、いろんな人がいること、人とは違うこと、対話することを重視している気がします。教育も変わってきていると思いますね。

ちえさん:子どもを大声で叱るのも見たことがないですね。子どもをコントロールするという発想はないです。

-例えば、聞き分けのない子どもがいて授業がストップしてしまう、といった場合はどうするんでしょう?

マーカスさん:その場合は先生をもう一人つけるとか。ケアする人を増やしますね。

ちえさん:こちらの教え方で驚いたのは、たとえばスペルが間違っていても指摘しないんです。目的は書いて伝えることだから、それができたかどうかだけを評価する。間違いを直さないのは、私は気になってしまいますが、その子のいいところを伸ばすのが大事という考えなんです。出来ていないところを指摘するというよりは、出来た部分に注目して、ここが良かったね!と伝える。学校でも職場でも間違いや失敗に寛容だなと感じます。

-ああ、それは私も思ったことがあります。スウェーデンの出版社と仕事をした時に日本の感覚からするととんでもない誤植が見つかったのですが「指摘ありがとう!」というくらいで、ミスした人もまったく気にしていないという。

ちえさん:こちらで暮らしていると、予想外の事に出くわすことも多いので、期待をしないようにしています。何か不具合があったとしても仕方ない、ただ待つしかないな、とか。完璧じゃなくても効率重視なところとか、でもまあいいかと。おたがいさまというか、気が楽になりますね。

そういえばこの間リサイクルショップでアラビア(フィンランドのブランド)のお皿と、リサイクルショップにしては値段のするジャケットを買ったんです。レジで係の人がジャケットを広げたので、畳んでくれるのかなと思ったら、そこに食器を置いてくるくるっと丸めて、これで大丈夫ね!って渡してくれて。ジャケットを緩衝材代わりにしちゃったんです。ああ、まさにエコだなって思いました。いい意味でのいい加減さですよね。

日本の便利さや丁寧さに慣れているとびっくりしちゃうかもしれません。でも、こっちにいると不便でいいやと思うようになる。みんなが不便を「まあいっか」と思えれば過ごせるんですよね。

湖では夏にボートやカヤック、水遊びをするほか、冬はスノーモービルに乗って氷上で魚釣りを楽しむ。

3回に渡ってお届けしてきた、スウェーデンの暮らしにおけるエコな試みや環境教育。最終回では、寛容性や多様性を認めるスウェーデンの教育方針や考え方にも触れることができ、自分のなかにもまだまだ気づいていない先入観や思い込みがあるなあ〜と思いました。人をジャッジしないこと、間違いにおおらかでいること。大人になっても重要な視点ですよね。

セーゲルステッド家のみなさん、スティーナさん、タック・ソ・ミッケ(どうもありがとうございました)!

スウェーデンで出会った、すやすやと眠る猫さん。それでは、グ ナット(スウェーデン語で、おやすみなさい)&ドロム ソット(よい夢を)!

プロフィール  森 百合子(もり ゆりこ)

北欧5カ国で取材を重ね、ライフスタイルや旅情報を中心に執筆。主な著書に『3日でまわる北欧』(トゥーヴァージンズ)、『北欧ゆるとりっぷ』(主婦の友社)、『いろはに北欧』(学研プラス/地球の歩き方)など。執筆活動に加えてNHK『世界はほしいモノにあふれてる』『趣味どきっ!』などメディア出演や、講演など幅広い活動を通じて北欧の魅力を伝えている。築88年の日本家屋に暮らし、北欧デザインを取り入れたリノベーションや暮らしのアイデアも実践中。 
HP:https://hokuobook.com
Instagram:@allgodschillun

森さんの連載記事をまとめて読みたい人はこちらから👇

カボニュー人気コラム「スローに歩く、北欧の旅『猫でテーブルを拭いてみる』」。これまでの連載を見逃した人や気になっている人におすすめです!
ぜひ、チェックしてみてね。

この記事が参加している募集

子どもに教えられたこと

多様性を考える

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!