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【スローに歩く、北欧の旅#18】ゴミ処理施設が、町のランドマークに

みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。カボニューにつながる北欧のさまざまな試みを紹介していくこの連載。今回は2023年1月に公開されたデンマーク映画『コペンハーゲンに山を』についてご紹介します。
 
コペンハーゲンに山……と聞いて、デンマークの地形を知る人は、お?と思われたかもしれません。というのもデンマークは土地が平らで、もっとも高い山でも標高170メートルほど。そんなデンマークの首都コペンハーゲンに現れた山とは……?

『コペンハーゲンに山を』原題:Making a Mountain
監督:ライケ・セリン・フォクダル、キャスパー・アストラップ・シュローダー
プロデューサー:カトリーヌ・A・サールストロム、キャスパー・アストラップ・シュローダー
出演:ビャルケ・インゲルス、ウラ・レトガー他
配給:ユナイテッドピープル
2020年/デンマーク/51分

©2020 Good Company Pictures

この映画で描かれる「山」とは、ゴミ処理発電所とスキー場を合体させた話題の施設、コペンヒルのことなんです。2011年、老朽化したゴミ処理施設の建て替えにあたって開催された建築コンペで出てきたのが「施設の屋根をスキー場にして、人々が楽しむ場所にしてしまおう」という仰天のアイデア。映画では、その突飛なアイデアが満場一致で支持され、9年の時をかけて2019年にできあがるまでの道のりを追っています。

©2020 Good Company Pictures
©2020 Good Company Pictures

コペンヒルができたのはコペンハーゲン南東にあるアマー島。運河の向こうには観光スポットとして有名な人魚姫像やカステレット要塞をのぞみ、デンマーク王室の暮らすアマリエンボー宮殿からもわずか1.5kmほどの立地です。レクリエーション施設も兼ね備えたエネルギープラントとして新しく生まれ変わったコペンヒルでは、ゴミの燃焼により年間約3万世帯分の電力と、約7万2000世帯分の暖房用温水を供給できるエネルギーを生み出しています。

デンマークは地域一帯に熱を供給する地域暖房が一般的。例えば窓下などに配管があり、温水を通すことで建物全体を温める仕組みです。個別に部屋を暖めるよりも効率がよく、寒さの厳しい北欧の国々では古くから地域暖房が採用されてきました。家庭で使われるエネルギーの大きなウェイトを占めるのが暖房で、映画ではそのエネルギーを生み出す焼却所の内部の様子も見ることができます。

©Press/CopenHill.

コペンヒルの屋上にはスキーやハイキングが楽しめるコースがあり、建物の壁面には全長85メートルと世界最長のクライミングコースも設置。入場無料の展望デッキからはコペンハーゲン随一の眺めを堪能できます。
 
コペンヒルのてっぺんに立つ煙突からは煙が出ていますが、その煙はフィルターにより無毒化されています。かつて工場地帯の煙突といえば汚染のシンボルだったのが、コペンヒルの煙突は持続可能な社会と未来の都市づくりの象徴となったのです。

©Press/CopenHill.

この奇想天外なアイデアを実現させたのはデンマーク出身の気鋭の建築家、ビャルケ・インゲルス率いる建築グループBIG。インゲルス氏の才能は、ネットフリックスのシリーズ番組『アート・オブ・デザイン』でも取り上げられ、彼の名を一躍有名にしたコペンハーゲンの集合住宅のプランや、ニューヨークに「デンマーク的発想の建築ができた!」と話題を集めた住宅施設VIA 57 ウエストなど代表的な作品とともに、インゲルス氏の建築への考え方が紹介されています。
 
この番組でインゲルス氏が語っていて印象に残ったのが「快楽主義的持続可能性(hedonistic sustainability)」という言葉。「持続可能な社会を、楽しみながら実現する」との考え方は何ともデンマーク人らしい!北欧諸国の中でも楽観的で陽気な国民性といわれるデンマーク人。環境や気候変動への取り組みも、深刻に考えるよりは、できるだけ楽しみながらの方が続けられるはず……そんな考え方もあり、まさにそれを具現化したのがコペンヒルなのです。
 
「建築は、環境に配慮しながら社会を元気にすることができる」「建築は人を幸せにし、問題を解決することができる」と熱く語るインゲルス氏。ゴミの山を希望ある未来の象徴に生まれ変わらせ、さらにはデンマークの人々に山頂からの眺めを見せることまで実現。その発想と手腕には感動しきりでした。

©2020 Good Company Pictures

映画『コペンハーゲンに山を』は都内での上映は終了となりましたが、本作を配給したユナイテッドピープルでは自主上映会の開催も呼びかけています。(上映に関する詳細情報はこちら
世界が注目する建築家と、カーボンニュートラル先進国デンマークの取り組み、そしてデンマーク的な持続可能社会に興味のある方はぜひチェックしてみてくださいね。その道程はもちろん平坦ではなく、素材選びに難航したり、予算とデザイン案の調整など、建築業界あるあるな問題をどのようにクリアしていったかも見どころです。

次回コペンハーゲン来訪時には、ぜひ実際にコペンヒルを訪れてみたいと思います!

コペンヒルの公式HP 

『コペンハーゲンに山を』配給のユナイテッドピープル公式HP 




デンマークのおうちは寒さが厳しい冬も室内は快適で、ぽかぽか。コペンハーゲンに暮らす猫のサリーちゃんもごきげんです。それでは、ハイハイ!(デンマーク語でまたね、の意味)

プロフィール  森 百合子(もり ゆりこ)

北欧5カ国で取材を重ね、ライフスタイルや旅情報を中心に執筆。新刊『日本で楽しむ わたしの北欧365日』(パイ インターナショナル)では北欧の暮らしやデザインとともに、環境アクションも紹介。ほか『3日でまわる北欧』(トゥーヴァージンズ)、『北欧ゆるとりっぷ』(主婦の友社)、『いろはに北欧』(学研プラス/地球の歩き方)などの著書がある。執筆活動に加えてNHK『世界はほしいモノにあふれてる』『趣味どきっ!』などメディア出演や、講演など幅広い活動を通じて北欧の魅力を伝えている。築88年の日本家屋に暮らし、北欧デザインを取り入れたリノベーションや暮らしのアイデアも実践中。 

HP:https://hokuobook.com
Instagram:@allgodschillun


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