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【スローに歩く、北欧の旅#47】スウェディッシュ・ポップスの町が環境先進地

みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧での体験を紹介するこの連載。今回ご紹介するのは、スウェーデン第3の都市マルメにある環境先進区域です。


サッカー、音楽で知られるスウェーデン第3の都市

マルメはスカンジナビア半島の南に位置する町。対岸にはデンマークの首都コペンハーゲンがあります。マルメ出身の著名人といえば、サッカー選手のズラタン・イブラヒモヴィッチ。また日本でも人気を博したカーディガンズをはじめスウェディッシュ・ポップスが生まれたスタジオもマルメにあり、音楽好きの間では知られている町なんです。

かつては造船業で栄えましたが、昨今では環境への積極的な取り組みが評価されているマルメ。省エネ住宅や再生エネルギーへの転換、自転車道路の充実など、低炭素で実現できる都市開発に早くから取り組んでおり、今回はそうした取り組みの先駆けとなったウェスト・ハーバー区域を訪れてきました。

町の北西に位置するウェスト・ハーバー地区にはかつて多くの造船工場がありましたが、造船業が衰退するにつれ、マルメ市は徐々に土地を買い戻して再開発に着手。そして2001年には「明日の都市」をテーマに掲げた「ヨーロッパ住宅展示会ーBo01(ボーゼロワン)」を開催し、環境に配慮した住宅と町づくりへ本格的に舵をきっていくことになるのです。

未来に向けた住宅地を、実際に歩いてみる

Boとはスウェーデン語で、住むという意味。住宅展示会 Bo01では、エコ建材を使用し、熱源や電力を100%再生可能エネルギーでまかなう住宅の建設が計画されました。屋上や公共部分の緑化や、洪水に備えて雨水をコントロールするために水路を作るなど、当時は画期的な試みも取り入れられました。

さて、実際にBo01で建てられた住宅街へ向かってみました。上の写真で、水路に向かって右側にあるカラフルな外観の建物が、2001年の住宅展示会のために建てられたものです。Bo01の基本コンセプトは、コンパクトながら生活に必要な要素を備えた1940年代の住宅システムに倣っているとのこと。

住居はぎゅっと隣り合っていますが緑が多く、水路があることで開放感があります。太陽光発電のパネルを設置している家も見られ、水路の手前にある庭やベランダに椅子を出して日光浴や読書をしている住人の方たちの姿も見えました。水路沿いの反対側には通路が整備されていて、居住者以外も行き来できる開かれた雰囲気なのが印象的。モデル地区ということで、見学に訪れる人も少なくないのでしょう。

期待の大きかったBo01ですが、予定していた建設が間に合わず、会期を早めて閉幕することになります。また当初の計画ほどには、住宅で使用されるエネルギー量を抑えることができずに批判にさらされることに。それでもウェスタンハーバー地区をはじめマルメ市全体における、その後の持続可能な町づくりや、これからの住宅のあり方を考える転換点となったことは確かのようです。

見た目だけじゃない、環境面でも優秀な名物建築

ウェスタン・ハーバー地区には、マルメのシンボルとされるターニング・トルソーもあります。名前のとおり人物が体をひねっているようなユニークな構造の高層ビルで、数々の建築賞を受賞するとともに、環境面での試みも評価されました。館内で使用されるのはすべて再生可能エネルギーで、各戸にはスマートメーターを完備。電力消費を把握し、コントロールできるようになっています。またキッチンのシンク内にはディスポーザーが取り付けられ、粉砕された食品ゴミはゴミ収集車の生ゴミ収集タンクに集まるようになっているとのこと。それがバイオガスに変換されて市内を走るバスなどに使われます。この仕組みは高く評価され、その後、別の地域で開発された集合住宅でも取り入れられています。

ウェスタン・ハーバー地区では、Bo01やターニング・トルソーでの取り組みを踏まえて、エネルギー消費を抑えた住宅開発が進みました。一部の建物には小型の風力タービンが備えられ、また海水を利用したヒートポンプで冷暖房をまかなうなど、風力・水力・太陽光発電、バイオマスなどさまざまな形で再生可能エネルギーの生産ができるようになりました。その結果、地元で生産される再生可能エネルギーにより、電力や熱源を自給自足でまかなえるスウェーデンで初の区域となりました。

地域内を歩くと食材店やレストランが点在し、公園も多く、暮らしに必要なものが近場で揃うように計画されていることが伺えます。ジグザグした道が多いのですが、海からの風が強いために建物が風よけにもなるよう配置されているそう。

海に面した好立地に建つのは55歳以上が入居できる高齢者向けの集合住宅です。1階には誰でも利用可能なレストランがあり、隣のユニークな形のガラスの温室は居住者用のスペース。この丸みを帯びた形も、海風の影響を軽減するためのデザインだそう。館内には図書館やジムもありますが、すぐ目の前の海で海水浴を楽しむ人も多いとか。この高齢者住宅があるせいか、海沿いを歩いていても高齢者の方をよく見かけました。

今ではウェスト・ハーバー地区だけでなく、他の区域でも環境に配慮した集合住宅が建設され、自転車道の整備や、町全体の緑化、そして再生エネルギーへの転換も進んでいるマルメ市。Bo01の開催時から行政側が重視しているのは、市民や建設業界をはじめ、あらゆるステークホルダーが町づくりに参加すること。官民学と立場を超えて対話ができる場を設けてきました。スウェーデンきっての環境先進地域が、今後どう変わっていくのか、気になります。

スウェーデンの街を歩いている途中で見つけた、サインプレート。バスルームやプライベートエリア用のサインに混じって「猫に注意」のサインが。スウェーデンといえば「ヘラジカに注意!」のサインもよく見かけますが、こんなクラシックなデザインの「猫に注意」サインもいいですね。
それでは、ハ デ ソ ブラ(スウェーデン語でよい一日を)!

最後に新刊のご案内をさせてください。大和書房の人気シリーズ、読んで旅する「よんたび」文庫から、北欧の旅を綴ったエッセイ本が3月9日に発売されました。なんと嬉しいことに、発売間もなく重版が決まりました!

『探しものは北欧で』
森 百合子 著 大和書房(だいわ文庫)より

毎年のように旅している北欧の国々ーフィンランド、スウェーデン、デンマーク、ノルウェー、アイスランド。建築、デザイン、ダンスをきっかけに始まった北欧の旅が、いつしか食文化やファッションにも魅せられ、街歩きから島へ、森へと旅する場所も広がって……そんな旅の時間を綴った一冊です。カボニューの連載でご紹介した場所や人も登場していますので、合わせてお楽しみいただけたら嬉しいです!


プロフィール  森 百合子(もり ゆりこ)
 

北欧5カ国で取材を重ね、ライフスタイルや旅情報を中心に執筆。主な著書に『3日でまわる北欧』(トゥーヴァージンズ)、『北欧ゆるとりっぷ』(主婦の友社)、『いろはに北欧』(学研プラス/地球の歩き方)など。執筆活動に加えてNHK『世界はほしいモノにあふれてる』『趣味どきっ!』などメディア出演や、講演など幅広い活動を通じて北欧の魅力を伝えている。築88年の日本家屋に暮らし、北欧デザインを取り入れたリノベーションや暮らしのアイデアも実践中。 
HP:https://hokuobook.com
Instagram:@allgodschillun

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