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【スローに歩く、北欧の旅#42】生まれ変わったエネルギープラントで、植物と山登りを堪能!

みなさん、こんにちは。北欧を旅するライターの森百合子です。カボニューにつながる、北欧のさまざまな試みを紹介するこの連載。今回はコペンハーゲンで話題を集める”山”に登ったお話です。

久しぶりの北欧取材が叶った2023年。ぜひとも挑戦したかったのが、コペンハーゲンに新しくできた"山"、コペンヒルに登ること。この連載でも、一度ご紹介しているコペンヒル(#18「ゴミ処理施設が、町のランドマークに」)とは、ゴミを焼却して発電するエネルギープラントに、スキー場やハイキングコースを併設した話題の施設なんです。

コペンハーゲンの東側に位置する、海をのぞむアマー島の北端に建つコペンヒル。周囲は倉庫や工場が多く、南へ下ると、日本からの直行便が飛んでいる空の玄関口カストラップ空港があります。町の中心部からは市バスを使って30分ほどで来ることができ、最寄りのバス停からは少し歩くのですが、シェアサイクルを利用して訪れている人も見かけました。

さて登山のスタート!ゲレンデの脇にある階段を登っていきます。標高も記してありますね。
訪れたのは6月上旬のこと。平日の夕方は人もまばらでしたが、ゲレンデではリフトが稼働し、スキーやスノーボードの練習をしている人がいました。スキー場にはスターティングゲートがあり、タイムを測ることもできます。

途中まで階段で登ると、ゴツゴツとした岩肌のハイキングコースに出ることもできます。人工のスキー場と聞いて、もっと無機質なイメージを抱いていましたが、ハイキングコースは植栽が豊か。背後を振り返ると、工場地帯の奥に風力発電の風車が何本も見えて壮観です!

ハイキングコースや屋上庭園などコペンヒルの植栽は、ランドスケープを得意とする建築事務所のSLAが担当しています。北国ならではの植物を中心に、標高75メートルの高所で四季折々の気候に負けない植物を選んでいるとのこと。ハイキングコースや屋上庭園は鳥や蝶、蜂など植物の媒介となる生物も訪れることができるように考えられ、実際にオープン当時よりも植物の種類は増えているそうです。ということは、次回来る時にはまた違った緑の景色が楽しめるのかもしれません。

地上78メートルの高さにはルーフトップカフェがあり、視界が一気に開けて海の向こうにはスウェーデンも見えます。さらにその上、地上85メートルの高さにある展望デッキまで登ると、展望ウィンドウからコペンハーゲン中心地の景色を眺めることができました。運河沿いにあるモダン建築、オペラハウスやその対岸にはデンマーク女王の居城であるアメリエンボー宮殿の丸い屋根も見えました。コペンハーゲンは何度も訪れている町ですが、こんな高いところから眺めたのは初めて!(もともとコペンハーゲンには山も高い建物もありませんから)

登る途中はあまり人とすれ違いませんでしたが、ルーフトップカフェにたどり着くとオープンテラス席が賑わっていました。カフェまでは、エレベーターでも行き来できるので気軽に訪れる人が多いのかもしれません。気持ちのよい初夏の夕方だからでしょうか、ビールを片手にのんびり過ごす人が多く、中にはジャケットを着た人たちでテーブルを囲んだ会社の集いのようなグループもいました。ルーフトップカフェではイベントや貸切パーティもできるそうで、こんな場所でわいわいと会合ができたらいいですよね!

下山時はスキー場の奥側にある階段を使って、登ってきたのとは違うルートと景色を楽しむことにしました。階段の壁面にも植物が育てられ、珍しい花もあって目を引きます。登る前は、果たしてスキーをしなくても楽しめる場所なのだろうか?と思っていましたが、眺望と植栽を楽しみながらのハイキングはとても気持ちがよかったですし、眺めや花々に誘われて違うコースを行き来したり上り下りしているうちに、いい運動にもなりました。

写真を撮ったり景観を楽しみながらゆっくりとハイキングを楽しむ人が多い中、タイムを測りながら階段を何往復もしてトレーニングをしている人がいたのには驚きました。そんな活用法もあるんですね。

下山してきたら、ちょうどボルダリングウォールもにぎわっていました。世界最長を誇る全長85mものボルダリングウォールはコペンヒルのもうひとつの見どころ。オーバーハングした壁を真下から見上げると肝が冷えますが、リズムよく登っていく様には思わず見とれてしまいます。ちなみにボルダリングウォールの利用は、デンマークのボルダリング協会の会員限定となっています。

ゴミ処理施設をスキー場にする、という斬新なアイデアで世界中の話題を集めたコペンヒルですが、トレーニングやスポーツを楽しみたい人、仕事仲間や友人と連れだってリフレッシュする人達を見て、レクリエーションの場所として開かれているのがいいなと思いました。こうした場所が身近になることで、ゴミやエネルギーの問題をより身近に考える機会が増えそうです。設計のビャルケ・インゲルス氏が掲げていた、持続可能な社会を楽しみながら実現する「快楽主義的持続可能性(hedonistic sustainability)」という言葉を改めて思い出しました。

それにしてもゴミ処理発電所の煙突から出る煙(フィルターで無毒化されています)を目指してハイキングを楽しむなんて、すごく21世紀的なレクリエーションですよね。体も頭も使うコペンハーゲンでの"山"登り、ぜひ機会があれば体験してみてくださいね!

スキーやスノーボードを楽しみたい方は、コペンヒル手前の建物にあるスキーカフェで、利用申込ができます。道具のレンタルもできるので、スキーヤー&スノーボーダーのみなさんはぜひ滑走にも挑戦してみてくださいね。

コペンハーゲンに暮らす、小さな友人が描いてくれた猫の絵です。私が猫好きと知っているので、海岸でみつけた石に猫を描いてプレゼントしてくれたこともあるんですよね。デンマーク語で「ありがとう」の気持ちを丁寧に伝えたい時は「マンゲ・タック」と言います。今回も読んでくださって、マンゲ・タック!

プロフィール  森 百合子(もり ゆりこ) 

北欧5カ国で取材を重ね、ライフスタイルや旅情報を中心に執筆。主な著書に『3日でまわる北欧』(トゥーヴァージンズ)、『北欧ゆるとりっぷ』(主婦の友社)、『いろはに北欧』(学研プラス/地球の歩き方)など。執筆活動に加えてNHK『世界はほしいモノにあふれてる』『趣味どきっ!』などメディア出演や、講演など幅広い活動を通じて北欧の魅力を伝えている。築88年の日本家屋に暮らし、北欧デザインを取り入れたリノベーションや暮らしのアイデアも実践中。 
HP:https://hokuobook.com
Instagram:@allgodschillun

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